序章

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序章

 暗闇の中、帰宅途中の男が一人歩いている。 人通りの少ない路地裏を歩き、数キロ離れた家に向かっていた。 路地裏を抜けて、蛍光灯の切れかけているのかバチバチ…と音を立て電気が点灯して恐怖感を引き立てるかの様に薄気味悪い雰囲気の公園にでた。 この道筋が近道でいつも通っていたのだが、その日は違っていた。 公園に数本の木の前で人が立っている。 男はなにか嫌な予感がして、公園を横断しようと足早に歩く。 人影に怯えながらも視線を前方に向けて、早く帰ろうと思っていた。 あと少しで…公園を抜けようという時、突然に黒い影が現われた。 「うわぁっ!!」 「血肉をよこせぇぇっ!」 叫びを上げる男の前で影は手を伸ばして男を捕まえ、体を裂いて血と肉片を辺りに撒き散らかして、鋭く尖った牙の或る歯で噛み砕き、グチャグチャ…と人間の臓器を食らっていく。 臓器を食らい尽くした残骸となった死体を残して闇の中へと姿を消していった。     **** 春の晴れ渡る空の下、大都市の真ん中に建てられた巨大な建物が或る。白い壁大聖堂がある。強力な結界に守られた神聖な場所だ。 「ハァー、過酷だなぁ…」 大聖堂の中に或る書庫で古い書などを片付けている若い男がいる。 名はカスト・アーラシト 茶色の短髪をワックスで立てて、薄く日焼けした肌を黒い神父服に包んだ今時の健康な青年だ。 1年前からここで雑用をこなしてきたが最近は書庫の掃除、整頓を任せられていた。しかし、片付けてもなかなか片付かなかった。 「おい、サボるなよ…」 近くから声が聞こえた。見ればカストと違い、黒髪で色白の肌をした神父服の青年もいた。 田舎町の協会から父の代理で呼ばれて来たイリスだ。同僚のカストよりは大人しくて仕事も丁寧にこなしていく。 「こんな広い書庫なんか片付くもんかっ」 何百年も前の古い書類や巻き物などがあり、さらに毎日に新しい聖書が送られてきて増える一方だ。 一週間、自宅に帰る事無く籠もっていたカストもいい加減に片付かないこの仕事にうんざりだった。 「でも、なんでこんなに片付いてないんだ?…何年かに一度は片付けるだろ?」  イリスはついこの間此処に着たばかりだった。 本と向き合えて勉強になると思い来たのだが…これでは勉強どころか気が狂いそうな程の静寂に耳鳴りさえも聞こえてきそうだ。
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