中盤ノ参

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◆◆◆ 仕事終わり、青年は帰路についていた。親しみのある夜闇を音もなく歩き、主のいる館へと向かう。ぽっかりと浮かぶ月の光が、彼の銀髪に降り注いでいた。 こちらの世界の夜は静かだ。セツナはいつもそれを感じる。 あちらとは大きく違い、街灯などもない。精々店先にランプがぶら下がっているくらいだ。外には人もおらず、通りはひっそりとしている。 その静かな時間は、時に余韻に浸る幸福な時間ともなる。しかし今日のセツナは溜息混じりに呟いた。 「今日はハズレだったな」 今回の仕事はつまらなかった。そういう意味だ。多くの場合、標的には腕の立つ用心棒がついている。中には見せかけだけのもいるが、そこそこ楽しめる者もいる。 だが今日の標的は、警備以外何も用意していなかったのだ。その程度、彼なら簡単に抜けられる。 「はぁ…」 それだけが残念だった。 気分を拭えないまま目的地に到着するところで、静かな声がかけられる。 「無事に戻ってきたみたいだね」 無論青年は、人の存在に気付いていた。そしてそれが誰かも。 「若様じゃないか。こんな時間に何してるんだい?」 軽い口調の使い魔。だが声の主は気にせず答える。 「君が心配で外で待ってたんだ」 「そう真っすぐ言われると照れるね。ま、ありがとう。この通り無傷だよ」 小さな笑みを口元に浮かべ、セツナは慇懃に礼をする。 「ただいま、イアン坊っちゃん」 「うん…よく帰った」 少年が頷く。星明かりの下であっても、セツナの目にはその姿が見えた。 中背痩躯。艶のある黒髪を持ち、綺麗だが幼さの残る顔立ちをしている。髪同様に黒い双眸にも複雑な感情が宿り、今は陰りを見せている。 年齢は十五歳程か。年不相応に落ち着いた空気を纏う一方で、暗い雰囲気を醸し出していた。 彼こそがセツナの召喚主、イアン・トローアだった。 表情の優れない主に、青年は優しささえ感じられる微笑のまま尋ねた。 「若様はどうしてそんな浮かない表情をしているんだい?」 ピクリと少年の眉が動いた。だが答えはない。 「また国王から仕事の依頼かな?」 その問いに、今度は体が震えた。図星のようだ。 「なんだ、それなら早く言いなよ」 セツナが笑んだまま言う言葉に、少年の表情が益々暗くなる。
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