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「喉が渇きましたね。ミネラルウォーターを下さい」
「うん、分かった」
「口移しで」
陽良子が途端に硬直した。
段々顔が真っ赤になって、ヨハンは笑う。
「嘘ですよ」
「もっ…もう!ヤメテよ!ビックリするでしょ!?」
「ミネラルウォーターじゃなくて、林檎ジュースにして下さい」
…そっちかよ!
慌てて部屋から出ると、リンゴジュースを手にして現れた陽良子は、グラスにストローを挿してヨハンに差し出す。
「口移しで」
「王子様にやって貰えば?」
「苛めても良いと仰ったのは陽良子様ですよ?」
沈黙。
陽良子は硬直して、先程の言葉に後悔した。
ヨハンの裸、細く見えたのは着痩せするせいだ。
逞しい男の人…。
唇は淡い桜色。
長い睫毛…チクショウ!色っぺー!
「犯したくなる気持ちが分かるな…」
「そうですか?犯して下さっても構いませんよ?」
「あのね…アタシ、シャムレックの一応婚約者ですけど…」
ヨハンが黙った。
大きな手が、陽良子の腕を掴み引っ張る。
ベッドに押し倒され、ヨハンを見上げて呆然とした。
「シャムレック…貴女に殿下の名前を教えていませんが?」
「…き、聞いたの!お屋敷の庭師さんに…」
「可笑しいですね…殿下の名前を知っているのは、私と国王陛下だけですが?」
「…へ?何で?王子様なのに?」
あり得ない…何でなの?
「お会いしたんですね。しかも…頻繁に…。最近殿下が貴女の事を口にする様になった。『陽良子に会いたい』…そう言って遠くを眺めていたのは…貴女を想っていたからですかね…いやらしい…悪魔の分際で…」
青い瞳が冷たい。
…凍えそう。
「シャムレックが悪魔?信じられない…彼は凄く優しい人だよ?」
そう言うと、ヨハンは笑った。
「男の私に抱かれてヨガル男が『優しい』?貴女の目は節穴だらけですね」
シャムレックがヨハンを抱く?
頭が真っ白になる。
つまり…本当に…。
「そっか…彼と貴方は両想いなんだね…となると、アタシは只…無作為に選ばれた『お嫁さん』なのか…そっか…悲しいなぁ…」
この世に馬鹿が居るなら、きっと陽良子の様な人間だ。
ヨハンは溜め息を吐いた。
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