始まりの慟哭

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『何もありません』 青森が答える。 「しー」 青森の口に人差し指をあてた。 彼女はびっくりした顔で、指先に向けて目を寄せた。 子供ぽい仕草がかわいい。 微かに聞こえて来る水の流れる音。 「聞こえた?」 果苗を見る。 うんうん 首を振る果菜。 彼女にはそんな仕草が良く似合う。 「なんかあったか?」 ぼさぼさが、いつの間にか部屋の中に入って来ていた。 「へぇ~結構荒れてんな」 ぼさぼさは部屋を見回しつぶやく。 「洗面所ってどっちですか?」 阿見好に尋ねた。 こういったアパートはどの部屋も同じ造りな筈だ。 「ああそっち」 指差された方へ急ぐ。 風呂場の中から、音はしていた。 「先生いますか!」 返事はない。 ためらわれたが、思いきって扉を開けた。 湯船の中に女性が一人。 うつむいて浸かっている。
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