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藤乃があそこで首をはねられた。
そのむごい情景が、簡単に想像できるほどおびただしい量の鮮血が、部屋の中央からあちこちに飛び散っていた。
なんともおぞましい光景だ。
父の話では、藤乃は盗賊を姉の部屋へと手引きし、抵抗する義兄を縛り付け、盗賊逃走の手助けをしたという。
そのため姉の誘拐後、藤乃は扶によって処刑された、と。
公雅は再び、変わり果てた姉の部屋に足を進めた。
「…………」
部屋の入り口に立った公雅の顔が、苦々しく歪む。
彼のよく知る姉の部屋だというのに、その面影はどこにも無い。
倒れた記帳。
粉々に砕けた油差しの皿。
その日も皺(しわ)一つ無く床に敷かれただろう寝具は、ぐちゃりと折れ曲がり、枕もあさっての方にある。
どれほどに、激しい格闘がくりひろげられたのだろうか。
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