第二章 禍津日

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「……人間は世界の敵って事? お前が言ってる事はよく分からないよ」 ガルンはそう言うと眉を寄せた。 しっかりしていると言っても十に満たない年齢だ。 《我は身勝手な人間ばかりではないと知っている。大多数の悪性を除去するために、数少ない良性を犠牲にする考えはない》 「……?」 疑問に眉を寄せる。 始めから理解しがたい内容に、とうとうついて行けなくなってきたのだ。 《しかし……今のお前は悪性そのものに、世界の歪みになりつつある》 「世界の歪み?」 《このままでは卿は悪霊として死ぬ事になるだろう。アポトーシスならばまだ良い。しかし、もし世界の敵となった時は……》 「……」 蒼い炎の濃度が――光輝が増す。 《我が卿を殺す。それだけは覚えておくがいい》 「命を助けたのに、今度は俺を殺す?」 ガルンはよろよろと木から離れる。 邪妖狼は微塵も動かない。 しかし、その身から溢れた鬼気がガルンを下がらせた。 《もし生き延びる事ができたのならば、その事を夢ユメ忘れるな。我が名はクフル。卿の死を見つめるモノだ》 そう言うと、蒼い狼は一声吠えると森の奥に走り去った。 まるで蒼い鬼火が消え去るように。 ガルンはその姿を茫然と見送ってからその場にへたりこんだ。
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