兎と亀

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 この時の王様はゴリラでしたが、思慮深い王様で、後に明君と謳われる中々の動物でした。  王様ゴリラは二匹の訴えを聴いて、即座に次のような判決を下しました。 「一つ、本件訴えの旨が、今回の競争の勝ち負けであるなら、亀の勝ちである。 一つ、本件訴えの旨が、亀の足が兎に比べて遥かに遅いという事であれば、そのとおりである。まことに亀の足はのろい。それは誤魔化しようのない事実である。しかしながら、亀は泳げ、兎は泳げない。本件最大の問題点は、歩みがのろく、かつ、泳ぎのできる亀が兎と駆け比べを行った事である。世の中には、本人や周りの考え違いから、このような理不尽と不条理が罷り通っており、今回の亀のような不公平な競争を強制される事は珍しくない。その事については、深い同情を禁じ得ないものであるが、だからと言って、亀の歩みが兎よりのろい事を否定するものではない。また、今回の競争に偶々亀は勝ったが、だからと言って、亀の歩みがのろい事には何の変わりもないのである。ウンヌン、以上。」  王様ゴリラはこう申し渡すと、ドドドドドドドと激しく胸を打ち鳴らし、さらに脅しつけるように、 「両名、何か異議はあるか。」  と言いました。  兎と亀は納得した様子ではありませんでしたが、ゴリラの馬鹿力を良く知っており、ひねり殺されてはかないませんので、恐れ入ってその場を下がっていきました。  その後、亀は兎との競争に死力を尽くした疲れから、病の床につき、半年後に死んでしまいました。亀は万年といわれる寿命をたった一度の駆け比べで縮めてしまったのです。  一方、兎はと言えば、亀の事などすっかり忘れて、気楽に長生きしました。  亀の最後の言葉は、 「オラ、兎に勝ったべ。」  だったそうです。  なんと悲しい話ではありませんか。  この話が人間の世界に伝わった時には、何故か兎の油断を戒め、亀の健闘を讃えるだけの話に変わっていました。どこで間違えたのでしょう。
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