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「蓮ちゃん明日は何時出発なの?」
「んー、東北だからな。現場に朝九時入りだから、四時位には出る予定かな」
「大変だね、車気をつけてね」
「あぁ、悪いな、この仕事帰ってきたら、絶対休みもらうから。子供達頼むね」
妻の洋子が運転しながら食べれるようにと、おにぎりの準備をしてくれている。
裕福とはとても言えないが、これが幸せというものなんだろう。
しかし、自らの過ちで全ての人を傷つけてしまうとはこの時は思いも付かなかった。
翌朝。
天気は晴れ。
隣で眠る子供達を起こさないようにそっと起き上がる。
「気をつけてね。」
洋子は眠い目を擦りながら見送りに起きてきた。
「寝てていいのに」
そう言いながらも、嬉しかった。
洋子は優しく、いつも一歩下がり僕を立ててくれる。
僕たちは、よくある友達の紹介で知り合い、僕と洋子に好意を持ってくれていた友人達との多角関係なども有り、当時はそれなりの大恋愛の末一緒になった。今思えば懐かしいが、あの頃の恋愛という事に対する底の無い力はどこから出てきていたのだろう。
そんな事も忘れてしまう程、今の生活に落ち着いていた。
きっと、今言ったら鳥肌が立つような台詞も言っていたのだろう。 結婚して改めて思ったが、僕にはもったいない位の女性だ。
作ってくれたおにぎりを持ちそっと玄関を閉めた。
車に乗り込み前日にセットしておいたナビを確認する。
「やっぱり450キロだよね……」
自虐的に覚悟を決める為に言ってみた。
「……よし、いくか。」
体を目覚めさせるように大音量で好きな音楽をかけながら出発した。
まだ存在すら知らない由宇の住む街へ。
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