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僕は見た。
「おいで~ミケや~。餌の時間だよ~。」
太った中年の男が、小さな三毛猫を呼んでいる。
僕は見た。
『ニャアァアン~』
嬉しそうな声を出して、三毛猫は走って近づいていった。
「いい子だな~ミケや~。ホレ、お食べ~。」
中年男がしゃがみ込み猫を撫でながら、青い皿に乗った餌を左手で差し出す。
右手は背中で隠しているが、猫は警戒していないようだ。一生懸命食べている。
僕は見た。
中年男の右手に、キラリと光る鋭利なナイフが握られているのを。
「ミケや~美味いか~??最後の馳走なんだ~タップリ食べな~」
右手が上がる。逆手にナイフを持っている。
三毛猫は食べ終わり、ペロペロと青い皿を舐めている最中だった。男が左手で猫の首辺りを掴むと、気持ち良さそうな声を出す。
ヒュッと降り下ろされたナイフは、見事に猫の左目に命中した。
猫の気持ち良さそうな声は、途端、痛みと恐怖に悶える悲痛な叫びに変わる。
僕は見た。
ナイフが手際よく目をえぐるのを。
僕は見た。
猫の目から血が大量に噴出し、猫が倒れ込むのを。
僕は見た。
僕は見た。
僕は…
「見たぞ!!」
物陰から僕は姿をさらした。
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