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録音もとにかく終了。
CDジャケットの撮影も、ルドが用意してくれたスーツを着て、何とかダンディなウィリーと釣り合いの取れる形で無事に終了した。
その後、ウィリーは支社長と連れ立って、ロンドンの夕暮れの街に消えて行った。
僕はこれまで何度もレコーディングを経験していて、ウィリーより、もっとキャリアの長い巨匠たちとも共演している。
そんなエライ人たちとの仕事が終わって、“打ち上げ会”がある時には、一応僕も声をかけてもらってきた。
ウィリーは大ベテランだし、差を付けられても仕方ないと思いながらも、最後の最後までアフターに声さえかけてもらえなかった事に嫌な気分になる。
僕は、スタッフ達と談笑しているルドを無視して、着替えの為に支社が用意してくれた部屋に入ると、そのまま帰り支度を始めた。
ふと、父の墓地で会った祖父母が頭をよぎる。
僕はイギリスなんて嫌いだ。
何が紳士だ。
紺の上着とネクタイをソファーに放り投げ、そしてチェックの模様の真新しいズボンも空中に放り投げる。
そして、いつものボロジーンズに履き替えた。
「おーい、ジム。」
のん気なルドの声がした。
スニーカーの靴紐を結ぶふりをして、しゃがんだまま返事をしないでいると、「どうした?」と人の気も知らないで僕の顔を覗きこんだ。
「あれ、機嫌が悪そうだな。」
「…。」
「何かあったのか?」
”何かあったのか?”じゃないよ、くそったれ。
一気に感情が膨れ上がって、僕は思わず怒鳴っていた。
「もうこんなレーベル、辞めるっ!」
「え?」
「こんな扱いを受けたのは初めてだ。あんまりだ。」
「おい・・。」
「君ももう僕のマネージャーなんて辞めて、ここに復帰すりゃいいんだ!」
ダークな感情が噴出して、自分でも止められない。
「そもそも、なんで僕がロンドンに来なきゃならないんだ。ウィリーがNYに来ればいいじゃないか。みんな、ウィリーにこびへつらって。僕とウィリーは対等なんじゃないか?そうじゃないなら、もっと良いヴァイオリニストを呼んでくればいいじゃないか。」
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