4.戦い済んで日が暮れて

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録音もとにかく終了。 CDジャケットの撮影も、ルドが用意してくれたスーツを着て、何とかダンディなウィリーと釣り合いの取れる形で無事に終了した。 その後、ウィリーは支社長と連れ立って、ロンドンの夕暮れの街に消えて行った。 僕はこれまで何度もレコーディングを経験していて、ウィリーより、もっとキャリアの長い巨匠たちとも共演している。 そんなエライ人たちとの仕事が終わって、“打ち上げ会”がある時には、一応僕も声をかけてもらってきた。 ウィリーは大ベテランだし、差を付けられても仕方ないと思いながらも、最後の最後までアフターに声さえかけてもらえなかった事に嫌な気分になる。 僕は、スタッフ達と談笑しているルドを無視して、着替えの為に支社が用意してくれた部屋に入ると、そのまま帰り支度を始めた。 ふと、父の墓地で会った祖父母が頭をよぎる。 僕はイギリスなんて嫌いだ。 何が紳士だ。 紺の上着とネクタイをソファーに放り投げ、そしてチェックの模様の真新しいズボンも空中に放り投げる。 そして、いつものボロジーンズに履き替えた。 「おーい、ジム。」 のん気なルドの声がした。 スニーカーの靴紐を結ぶふりをして、しゃがんだまま返事をしないでいると、「どうした?」と人の気も知らないで僕の顔を覗きこんだ。 「あれ、機嫌が悪そうだな。」 「…。」 「何かあったのか?」 ”何かあったのか?”じゃないよ、くそったれ。 一気に感情が膨れ上がって、僕は思わず怒鳴っていた。 「もうこんなレーベル、辞めるっ!」 「え?」 「こんな扱いを受けたのは初めてだ。あんまりだ。」 「おい・・。」 「君ももう僕のマネージャーなんて辞めて、ここに復帰すりゃいいんだ!」 ダークな感情が噴出して、自分でも止められない。 「そもそも、なんで僕がロンドンに来なきゃならないんだ。ウィリーがNYに来ればいいじゃないか。みんな、ウィリーにこびへつらって。僕とウィリーは対等なんじゃないか?そうじゃないなら、もっと良いヴァイオリニストを呼んでくればいいじゃないか。」
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