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すりすりとあきちゃんの胸に頬を寄せる。
トクン、トクン――
確かに刻まれる生命(いのち)の音
「まさか自分の息子のオペをする日が来るなんてな」
あきちゃんのパパの声も震えている。
「彩ちゃんを守ったことは誉めてあげるけれど、………心配させないでちょうだい――。生きた心地がしなかったわ」
あきちゃんのママは、泣き崩れこそしなかったけれど、浮かぶ涙を隠そうともしなかった。
「彩――。どこも痛くない? 怪我はしてないか?」
私の怪我は軽度の打ち身と擦り傷で、あきちゃんが目覚める数日のうちに、ほとんどが完治していた。
無事だと知らせて安心してほしかったけれど、声の出ない私は、ふるふると首を振るだけだった。
あきちゃんの、『よかった』という声も震えている。
「彩のことより――、自分の心配をしてくれよ。おまえは? おまえは………」
パパは、ママの肩を抱きながらICUへと入ってきた。
ママは、私が目覚めたときのように泣き崩れている。
「あき、あき――。本当によかった」
「唯、泣かないでよ――。唯に泣かれるとどうしていいかわからなくなるだろ?」
おろおろと狼狽えるあきちゃんは、愛しい存在(もの)を見つめるかのように、慈愛の眼差しをママに注ぐ。
やっぱり―――
ツキンと痛むその胸は、あきちゃんのその眼差しの理由に気付いてしまったから。
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