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「まるでシンデレラみたいよね」
ワイングラスに入った濃い紫色の液体をゆっくりと回しながら彼女は言った。
「なにが?」
彼は目の前に座る、見た者に息をのませるほどの美貌を持ち、年下とは思えないほど思慮深く、年齢よりも大人びた色香を放つ少女を見た。
彼女は赤くふっくらとした唇の端を吊り上げた。その仕草はひどく艶(なま)めかしかった。
「あなたの所の“お嬢様”」
彼ーー瞬は眉をひそめた。
瞬が答えないにも関わらず、彼女は続ける。
「一夜にして母子家庭の貧しい暮らしから日本でも屈指の資産家、香我美家の令嬢になった彼女ーー。……ほら、シンデレラみたいでしょう?」
白い肌にサラサラと髪が落ちる。
杯を瞬に向かって掲げる仕草はひどく芝居がかっていた。
しかし彼女は酒に酔っているわけでも自分に酔っているわけでもなかった。
目はひどく冴えていた。
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