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運動部が汗と涙の青春を謳歌しているそのすぐとなりでは、文化系の部がそれぞれ摩訶不思議な青春を送っている――
とまあ、これはごく当たり前の事実なのだが、不思議なことにこのことに気が付いているものは――文化系も含めて――誰もいない。
しかし、時々――本当にたまたま――その境界線を越えて、文化系という、ワンダーゾーンに迷い込む者がいる。
そして、今日もまたひとり。
いや、じきにもうひとり――
まだ朝もやがかかっている中、ひとりの少女が小走りに駆けていた。
学園へと通じる並木道にアスファルトを蹴り付ける軽快な靴音がこだましている。小脇に抱えた学生鞄が上下に着込んだジャージに不釣り合いそうに揺れていた。
正門に近づくと幾分そのスピードが緩んだ。ウェーブのかかった長い髪がヘアバンドの脇からはみ出し、汗ばむ額に張り付いている。
入学以来の日課となっている朝のランニングのおかげで今日も一番乗りの登校だった。彼女は今日が新学期の始業式であることを思い出しながら、弾んだ呼吸と気分で校門を駆け抜けた。
しかし――
突然、彼女の足がスイッチを切ったようにぴたりと停止した。同時に鞄が音を立てて落ち、しんとしたグランドに大きな音が響きわたる。
「な、な、なによこれ……」
それを目にし、彼女は思わず呟いた。
グランドはびしょ濡れだった。
水たまりなどという生やさしいものではなく、グランドはすっかり水に浸かっていた。
照り返す朝日が、呆然とした彼女の目に容赦なく飛び込んでくる。
彼女は水面に写る自分の上半身を見つめながら、記憶を遡った。昨日、合宿中の男子部員たちに顔を出しに行ったときにはこんな水たまり【モノ】はなかった。もちろん、昨夜雨に降られた記憶はなかった。
(ということは……)
彼女の脳裏で何かが不意に閃いた。
「ヤツらだわ……」
言葉が自然に口をついて出る。
「あの連中の仕業以外に考えられない……」
鞄を拾い上げ、彼女は拳を握りしめた。体に流れる中等部生徒会長としての血潮が煌々と燃えさかっていた。
そして――
バシャッ!
彼女は勢い良く水たまりに足を踏み出した。
「今度という今度は、絶ぇ――っ対に許さないんだから!」
怒れる少女――水の森まりも。
あの連中と関わって以来、
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