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 HITO GATA  花曇りのぼんやりとした日差しをうけながら、私は公園のベンチに腰掛けていた。  日曜の昼下がり、人影はまばらだった。  目の前には追いかけっこをしながら歓声をあげる子供たちや、散歩をしている老夫婦の姿がみえる。  花壇には小さな花々が咲きみだれ、公園のまわりには葉桜が一列にならんでいた。  時おり、わずかに残った桜の花びらが吹きわたる風にあおられ、ゆらゆらと空中に舞っている。  私はゆっくりとした動作でポケットから煙草をとりだして口にくわえた。  左手でジッポを覆って煙草に火をつけた。  ジッポオイルの微かな匂いを感じながら、上へ向かって煙をふきだす。  春の空へと、紫煙の流れがとけていく。 「座ってもよろしいですかな」  ふいに声をかけられ、首をめぐらせてみると一人の老人が立っていた。  背の高い老人は、少々太りぎみの体に白のシャツとグリーンのカーディガン、下にはジーンズというずいぶん若々しい装いだった。  歳とはつりあわない格好をしていたが、老人の白髭をたたえた風貌にそれは不思議と似合っている。  老人の隣には白い大きな帽子をかぶった女性がいた。  帽子にさえぎられて顔は見えなかったが、まっすぐにのびた黒髪の間から白い小さな顎と薄い唇がのぞいている。  足がわるいのか、彼女は老人に支えられて立っていた。 「どうぞ」  ベンチの端の方へと場所を変えて腰を下ろす。  老人はわずかに頭を下げると、帽子の女性をベンチにそっとかけさせた。彼はほっと息をつくと、ハンカチで額の汗をぬぐいながらベンチに座った。 「いいお天気ですな」  空を見上げて、老人がぽつりと言った。 「そうですね」  私は投げやりな返事をしつつ老人の顔を見た。  老人の顔には細長い無数の皺が刻まれている。  太く力強い線で形づくられた容貌は皺の一本一本が集まり、老人の顔を親しみやすいものにしていた。  写真でみたことのある、晩年のアーネスト・ヘミングウェイに似ている。 「散歩ですか」 「まあ、そんなところです」  老人の返事を聞きながら、私は口にくわえた煙草を深くすいこんだ。  私は公園へ来る前に会っていた女のことを考えていた。
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