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 数時間前、女の住んでいるマンションの一室で、私と彼女はテーブルをはさんで向かい合って座っていた。  薄化粧をした女は私にむかって一方的に話している。  青ざめた女の口からは、私に対する侮蔑の言葉がもれている。  私は黙りこみ、彼女の際限のない言葉の羅列を聞いていた。  彼女の神経質そうな青白い顔が次第にひきゆがんでいく。  全てがうんざりだった。  そらぞらしい会話や彼女の無意識に媚る仕草、習慣と化したセックス、それにはっきりとしない自分がたまらなく嫌だった。  外面をとりつくろうとして子供じみたポーズをつけたがっている自分に辟易した。  そしてなにより、そんな自分を外から冷静に眺めているもう一人の自分を嫌悪した。  私は全てのものから逃れるようにして彼女の部屋を出てきた。  煙草の煙を外にむかって吐きだす。  よどんだ思いが、公園の風景の中に消えていく。  私は急にするどい痛みを感じて、みぞおちの上あたりをさすった。  会社での仕事の疲れがでたのだろうか、どうにも体の調子が悪いようだ。針で突き刺されるかのように、胃がキリキリと痛む。 「大丈夫ですか。ずいぶん顔色が悪いようだが…」  隣の老人が私の顔をのぞきこんで言った。  どこか遠い場所から聞こえてくる声のようだ。  大気を撫で、桜の花びらが螺旋を描いて降ってくる。  暗闇にそまっていく視界の隅に、老人の隣にいた女性の顔がみえた。  大きな黒い瞳が私をみている。  彼女の唇に微かな笑みがうかぶのを見とどけ、私は漆黒の闇へとすべり落ちていった。
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