熱海

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そのとき― 「なに部屋に籠もってるのよっ二人とも…」 元気な声が聞こえて、扉が開けられるとよく知る人物が立っていた。渋谷克巳だ。しかも、横にはマネージャーの高坂もいた。 「渋谷ぁ…何しにきやがったっ…」 晃司は不機嫌な顔つきで邪魔した二人を睨んだ。 「そんな嫌な顔して…みんなで飲んでるから誘いにきたのにヒドイわ…」  そんな晃司の様子から何を考えてるのか分かる渋谷は、お得意のおねえ言葉で話し始めた。 「行ってこいよ…俺はテレビ見てるからいい…」 二人の話を聞いていた泉は、畳の上に座り込んでテレビのスイッチを入れた。 「俺も行かねぇ…お前らだけで呑んどけ…」  泉の様子を見ていた晃司は、フイっと顔逸らして渋谷達を部屋から追い出してバタンと扉を閉めた。 「もうっ…せっかく呼びにきたのにぃ何よあの態度っ…」 渋谷は愚痴を溢して、高坂と扉の前で立ち尽くしていた。 「克巳くん…仕方ないですよ…戻って呑みましょう」 晃司のマネージャーをしている高坂は、晃司の性格を理解しているのか、克巳に声を掛けて本館に指を差した。 「いこうか…高ちゃん…」しばらく待ったが出てくる気配もなく、諦めた渋谷は高坂の方に視線を向けて、本館に足を進ませた。  ********** 「お前、行かなくていいのか?」 テレビでサッカーの中継を見ている泉は、畳の上で座り込んでいる。木製の台の上には様々な旅館の料理が並べられている。それらに箸を伸ばして、口に運ぶ晃司の姿があった。 「いいの…俺は泉と居られたらいいんだから…」 箸を皿の上に置いて、地酒の入った徳利を傾けて空になったお猪口に酒を注ぐと、晃司は長い指先で掴んで口に運んだ。 「お前って奴は…」 そんな様子を見ていた、泉は呆れていた。性格はだいぶ理解しているが、泉といる時といない時ではまったく性格が違うからだ。 陽が沈み辺りが薄暗く闇に包まれると、見ていた番組も終わり、泉は夕食を食べ終わり暇そうに窓から見える夜景を見ていた。 晃司は今だに何本かの徳利を並べて、猪口を口に運んでいた。
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