序章

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 窓に目を向けると、東京湾が一望できた。  数年前に閉鎖された東京湾横断道路もはっきりと目に映る。  空は青く、薄雲の一筋も見えない。  同じ色の水平線と遙か遠くで溶けあっている。  少年は太陽のまぶしさに目を細めた。  しばらくそうしていると、抑揚の少ない事務的なアナウンスが三〇人ほどの乗客で埋まった機内に響き渡った。 『当機は間もなく目的地の〈メガフロート〉上空にさしかかります。降下の際はベルトの着用をお願いいたします――』  アナウンスを聴いて、その少年は再び視線を下に向けた。  埋め立て地に隣接するように巨大な人工島――メガフロートが細長い体を浮かべている。  島の南側の空港から、様々なタイプのエアビーグルが飛び立っている。  少年はこれらビークルの心臓部――コアは全てメガフロート海底から下に延びる地下空間〈ジオスペース〉で産出されているのを思い出した。  コア――東京湾の地下一〇〇メートルの地層から発見された未知の球状鉱石は人類を計り知れない変革へと導いた。  コアはその表面に微弱な電流を流すことによって浮遊エネルギーを生み出したのだ。  コアのこの特性を利用し、人類最初の反重力システムによる空中浮遊装置が開発された。  このニュースは世界中に強い衝撃と期待をもって受け入れられた。  同時に、日本政府はじめ各国はこの未知の物質とその技術を国連直属の新団体の管理のもとにおくことに決定した。  Core Administration Development Organization、略称――CADOの誕生である。  CADOはコア発掘地、すなわち東京湾海底地下にジオスペースを、そしてその真上にメガフロートを建設し、本部を置いた。  発掘されたコアはCADOによって各国に計画的に輸出されていった。  じきにコアシステムを使った乗り物が誕生し、加速度的に全世界に普及することになる。  少年が乗っているこのエアバスも、もちろんコアシステムを搭載し、入港待ちのため、高度八〇〇メートルで静止している。  まわりの乗客がアナウンスに従いベルトを付けはじめたのを見て、少年も座席の横に手を伸ばした。  その時――  突如、ものすごい衝撃が体を襲った。  下から同型のエアバスが衝突したのだ。  機体が激しく振られ、
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