取るに足らない物語

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 彼らの寿命は、夏の間の、ほんの一瞬だと思われていることがよくある。しかしそんなことはない。彼らは地上で過ごすわずかな時間の、何百倍もの時間を、地中でひっそりと生きているのだ。  彼もこの世に生を受けてから、もう何年もの時間を地中で過ごしてきた。だがその生活も今日で最後である。  羽化のために、懸命に地上を目指す。最後の大仕事のため、懸命に懸命に。  そして地上に顔を出し、木に登り始める。あと少しなのだ。羽化まであと一息だった。  彼は力尽きて動かなくなった。木の途中で彼は息絶えた。
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