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遠い。
気まで遠くなりそうな距離だ。
だが、ここで気絶している場合じゃない。
絞り出した力で水を蹴る。
片手でゆずるを抱きながら、もう一方の腕で水をかく。
苦しい。息が。
酸素が欲しくて、半ば藻掻くように、上へ、上へ、泳ぐ。
「はあっ」
口が空気に触れたと同時に、水もろとも酸素を肺の中に詰め込む。
「ぐっ。げほっ。ごほっ、ごほっ」
あまりの苦しさに涙が流れ出た。
咳き込みながら、やっとの思いでプールサイドにたどり着くと、まずはゆずるを水から上げ、自分も上がる。
「おいっ」
呼ぶが返事がない。
揺すっても反応がない。
息は?
口元に顔を近付ける。
していない……?
心臓は?
……動いている。
弱々しくはあるが確かに動いている。
わずかにホッとして、直久はゆずるの頬を叩く。
「ゆずる、おいっ。しっかりしろよ」
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