第1話:憑依とTS?

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 少しばかり良心が痛むものの、騙し切るより他には無い。 「お姉様、今日は勇者様と御逢いする日です。緊張で眠れなかったのでは?」 「そ、そうね、リリアンナ……」  現状では別の意味合いで緊張をしている凍夜には、リリウム姫の妹のリリアンナに対して、まるで現在の気持ちを吐露するかの如く応えた。  姉であるリリウムと異なって、リリアンナは金髪を短めにしている。  瞳の色は自分──リリウム──と同じ緋色だが…… 「お座りなさい、もうすぐ勇者様の御到着ですよ」 「判りました、お母様」  二十代後半くらいにしか見えない王妃──アネリアに促された凍夜は右側の席に着いた。  揉み上げをロールさせた長めの銀髪に碧い瞳から、髪の毛は母親譲りだと理解が出来る。  リリアンナの金髪は父親譲り、緋色の瞳に関しては姉妹共に父親譲りの様だ。  確か、ユーリからの情報によればリリアンナの年齢は一五歳との事。  成程……自分の──篝火凍夜の妹である篝火雪華と同い年である。  奇妙な符合に思わず笑みを浮かべそうになった。  尤も、こんな所で意味もなく笑っては訝しまれてしまうから、そんな事は出来ないと顔の表情筋を引き締めて、謁見の間と通路を繋ぐ大きな鉄扉を見遣る。  もう暫く待てば勇者様の御一行がやって来るのだと云う、だけど凍夜はどんなイケメン勇者だろうと知った事ではなく、目的を果たすべく話を進める心算だ。  どんな男かは知らない、若しやすれば好青年なのかも知れないし、或いは姫様を自分の立身出世の為にも利用したい野心家かも知れないが、どちらにせよ凍夜にとっては無関係。  どの道、お姫様も反対をしてた身であるからには、此方こそ勇者を利用してでも結婚をさせはしない。  お姫様の──リリウム姫の為と云うよりは自分自身の貞操と、精神の平穏の為と云う身勝手な意思で。  勇者様とやらが良い人間なら、少しは悪いと思わないでもないのだが、凍夜も男を恋人にしたくはない。 「(そういえば御一行様って話ですけど、パーティを組んでるという事ですね。パーティメンバーはどの様な方々でしょう?)」  心の中まですっかり女の子みたいな言葉遣いなのに愕然としたが、気になった事を考えてみる。  其処へ、門兵らしき兵士の声が響いた。 「勇者御一行様、お着きになられました!」  その言葉と共に重く鈍い音を立てながら、鉄扉が開いていく。
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