第1話:憑依とTS?

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 綺麗に着飾った自分でありながらも他人で、全くの別人な顔のお姫様を見て、思わず溜息を吐く。 「ハァー、仕方がないとはいえ、自分がこんなドレスを着るなんてねぇ」  幾ら言葉遣いを強制的に矯正をされたとて、凍夜の意識の上では飽く迄も自身は性別が男である。  こんなヒラヒラドレス、着るのを遺憾だと思うのはどうしようもない。  まあ、自分自身の身体ではなく端から見た場合ならば可愛いと思う容姿だが、この地が異世界だと決定した時点で本来なら出逢う事は無かった相手だ。  凍夜は再び溜息を吐き、更衣室──ドレッサールームから出た。  これからお姫様の父親、つまり国王陛下に会う。  だけど、自分にとっては初対面な御偉いさんでも、身体の主のお姫様にとっては毎日会う相手である。  ユーリからは教えられた通り、挨拶を熟せば良いと言われていたから、それが恐らく日常なのだろうと、凍夜はそう考えた。  国王と姫君の会話なぞ、アニメや小説でしか遣り取りを知らない身としては、マニュアルが有るのは大変に助かる。 「それではトーヤ……否、姫様。参りましょうか」 「わ、判りました……」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  静々と、そして楚々として歩くドレスアップをした凍夜姫(笑)……  大扉を開かれて謁見の間までの道が続き、凍夜がそれを潜ると四つの──大きな玉座が二つ、小さな玉座が二つ置かれていた。  二つの中央玉座に壮年な男女、左右の小さな玉座の内の左側に、凍夜のガワとなっている姫様に似た年下の少女が座る。  ユーリに聞いた通りだ、両親の国王夫妻と妹姫。  国王ランドルフ・ルード・フェリシス、王妃アネリア・フェイ・フェリシス、妹姫リリアンナ・ルナ・フェリシスの三人だった。 「漸く来たかね、リリウムよ」 「はい、御父様。リリウム・フィーナ・フェリシス、ただいま参りました」  四十代くらいの国王であろう、立派な髭を生やした男性が凍夜──リリウム・フィーナ・フェリシスへと話し掛けてきた。  その声は荘厳で優しい。  凍夜はリリウム姫に成り切り、スカートの両端を摘まんで左足を後ろに、頭を下げて挨拶を交わす。  正直にいうと心臓がバクバクと鳴り響いて、本当にバレないだろうか? 間違ってないだろうか? などと冷や汗を掻いていた。  だが然し、ユーリ以外の人間と会ったからには最早賽は投げられたのだ。
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