第①夜 海驢(前半)

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十一月も半ばを過ぎていたその日、オレはいつものようにハンバーガーショップ『シーキャットバーガー』通称『ねこバガ』に立ち寄った。 パステルカラーのメルヘンチックな建物の中に入る。 仕事帰りはここか、コーヒーショップ『怒涛(どとう)』か、牛丼ショップ『まずまずや』で済ます事が多い。 猫に翼を生やしたこの店のマスコットが、店内を彩っている。 最近、夜は外食ばっかりだ。 自炊し始めると、自炊が続き。 一旦コンビニ弁当で妥協するとそれが続き。 ピザに味を占めると……や、ピザはさすがに頻繁な時でも二日は空ける。 ピザのマイブームは、そんなに続かないし。 因みにオレは『国士無双』のピザが1番好み。 メルヘン全開のカウンターでオーダーを済ます。 今日の晩飯は『シーパラダイスバーガーセット』『シーキャット風レギュラーコーヒー』『シーキャット特製シーザーサラダ』だ。 店内はがら空き。 席は選び放題。 テキトーにチョイスして一人腰掛けると、鞄を隣の席に置きながら、ネクタイを解き、ダウンジャケットのポケットに突っ込む。 ダウンジャケットを脱いで鞄の上に重ねた。 時刻は21:55。 外はすっかり暗くなっていて、歩いていると肌寒い。 日中はまだ暖かいが、夜遅くなると流石に冷え込むな。 条件反射でケータイを、スラックスの右ポッケから取り出して、受信メールのチェックを始める。 その内の一つに返信して一旦テーブルに置くと、食事に取り掛かる。 侘(わび)しいなあ… 感傷的になっている自分も悪くない、そう思っていると、店の自動ドアが開いて小学生らしき女子二人組が、二人仲良く入店して来た。 一気に店内が華やいだようだ。 どちらも、可愛いらしいつるんとした顔に無邪気な笑顔をうかべている。 小さな身体を、お洒落でチャーミングな服で着飾って、まるで等身大の動くお人形さんみたいだ。 眩しい。 今のオレには、眩し過ぎる。
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