1章【再会】

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  「久し振り」 意識せずとも、口元から微かに笑みが零れる。 葉月の家の前。 何度もチャイムを押そうか迷い、けど。 刹那、考えが頭を巡り躊躇う。 葉月以外の家族が出たら。 うまく話せなかったら。 結局、葉月が家から出て来るのを、ただ待ってた。 ボクに気付いた葉月は一瞬戸惑う。 けど、すぐに目を細め、眉を寄せた。 無視。 ボクの前から通り過ぎていった。 追い掛けることはせず、その後ろ姿をじっと見つめてた。 晩秋。 色付いた木々は木の葉を落とし始め、風はすでに冷たかった。 葉月と逢うのは2年と8ヶ月振り。 ボクらは17歳になった。 葉月の今の家。 あの後、親戚の家に引き取られたと聞いた。 夕暮れ。 葉月、今度は遠慮なく顔いっぱいの嫌な顔。 苛ついた口調で短く一言。 「なんで?」 葉月の声。 いつだってボクの身体の真ん中に響くのは葉月だけ。 懐かしさに胸が痛い。 「少年院から出たよ。今は、保護観察中かな。」 葉月はボクをじろりと睨んで、 「…ここじゃマズイから。」 家の前を通り過ぎ、そのまま歩く。 早足で。 ボクは追い掛ける。 「葉月に逢いたかった。」 それだけ。 ただ、それだけ。 葉月は振り返らず言う。 「馬鹿?」 「うん。」 「死ねばよかったのに。」 「うん。」 嬉しくて涙が出た。 「馬鹿じゃないの…。」 葉月は一度も振り返らない。 それでもいい。 葉月と初めて逢ったのは14歳の時。 冬の雪の日。 その日から、ボクの世界には、葉月しか居ない。  
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