甘い唇

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  「私の事、本当に好き?」 自分から切り出した別れ。 聞いたソレに、好きだよ。と返してくれたけど、 でも、彼は最後迄、私を必要とはしてくれなかった。 腕を広げても、彼は立ち止まったまま。 手を伸ばしても、彼は私の手を取ってはくれなくて。 身動きがとれなくなった。 そんな初恋。 ほろ苦い、いや、かなり苦かった、でも、大事な時間。 * * * 「……あ、れ?」 懐かしい夢を見た。 別れたのは1年以上前なのに、今更、ヤツの夢を見るとは、ね? 好きだったんだよなぁ。本当に。 未だ、ヤツ以上の男は居ない。 人口の約半分は男の筈なのに、初彼以上の男に出会えないってのは、ある種の不幸よね? ……ってか、今、何時? 部活が終わるの待ってろ。言われて、……まぁ、暇すぎて眠りこけた訳だけど? あぁ、でも、だからかな? あんな夢見たの。 そー言えば、別れ話はうちのガッコの教室だったなぁ。 文化祭の時だったもんな。 懐かしい。 「起きたか?」 薄暗い教室で、ふと頭上から降ってきた声。 出そうになった悲鳴を呑みこんで、その声の主を見上げれば、 「……緒方?」 我が校の生徒会長、様。 「下校時間だ。とっとと帰れ」 「あー、うん。ごめん」 寝起きの耳に響く、甘い低音。 壁に背中を預けて、無表情に私を見降ろす、その顔も、無駄にキレー。 って、あれ? この人、今、どっから現れた? 「もしかして、……起きるの待ってた?」 「……」 無言は、肯定? 「起こしてくれても、良かったのに」 「寝てるオンナを起こしても、ロクな事がない」 どー捉えればいいの?それ。 「私、寝起き悪くないもん」 「いいから、早く帰れ」 腕を掴まれて、半ば強制的に立たされる。 「…………、」 「何だよ?」 「あ、いや、別に」 強制的に、なんだけど、何だろう? 流石と言うべきなのか、女の扱いに慣れてる感が凄いな。 まぁ、女の扱いに慣れてる男に、私も慣れてるけどさ。 「……、あぁ。あと、宝城が待ってたっぽいぞ?」 「え?あ、あぁぁぁぁ!やっば!!ありがと、緒方。ばいばーい」 言って手を振ったトコロで、返って来るのは無反応。 解ってるけど、さ。 同じクラスなんだから、もう少し愛想良くしてくれてもいいじゃないよ、ね? 顔だけなら、本当、好物なんだけどなぁ。  
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