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「ねぇ、俺と浮気しない?」
日曜日の昼下がり。
バイト先のライブハウスの受付のテーブル内で、
ぼんやりと物思いに耽る私の耳に、飛び込んできた言葉。
視線をその言葉を発した人に移す。
笑顔を私に向けながら、
そいつは同じ言葉を繰り返した。
「俺と浮気、しない?」
私はまじまじと、そいつ、長谷川英児(ハセガワ エイジ)を見上げながら、軽くため息をついた。
「私に言ったの?」
「当たり前じゃん。今、他に人いないし。」
確かに目の前の狭いロビーもどきの場所にも、
いつもは何人かのバンドマンたちがたむろってる入口付近にも人影はない。
「あのねえ、なんで私に?」
私は一応フリーだ。
表向き、恋人はいない。
「浮気するもなにも、もともと本気の相手いないし。あんたと違って。」
そこまで言ってから、
私はハッとなり、口を両手で押さえた。
「やっぱり、あそこで見かけたの、いぶちゃんだったか。」
しまった…。
自分から、墓穴を掘るようなことを…。
と、いうことは、
私も、知られてしまったということ?
こんな軽そうで、何も考えていなそうな高校生に、
私の、誰にも知られてはならない秘密を…。
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