戦の華

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揚げ豆腐を箸で雑に割り、一口より少し小さいくらいのものを友枝の口元へ持っていく。 「……だから違うって。 …気持ちはありがたいけど今は無理…。 朝?ガリガリ音がしてたから、何かと思って。」 退けられた小さな揚げ豆腐を口にしながら、しばらく考える尚晴。 やがて「ああ。」と思い当たったようで、箸を置いて代わりに何かを拾い上げた。 「これ彫ってたんだ。」 握りこぶし大の木の塊を手に持っている。 「?? ………ひと?」 いびつながら、それは合掌する人のように見える。 しかし違ったようで、尚晴は少し肩を落とす。 「仏だよ。仏像。」 「仏ぇ!?」 友枝は再度まじまじとそれを見る。 「…うん、確かに。 言われてみれば。」 尚晴は若干不機嫌そうにそれを床に立てて、また揚げ豆腐に向かい始めた。 「お前が此処でそのまま死にやがったら、そいつで供養してやろうかと思ってな。」 視線の先は揚げ豆腐。 冗談とも本気とも取れる口調である。 友枝は手だけ動かして尚晴いわく「仏像」をそっと掴み、じっと見つめた。 いびつで粗削りだが、不思議と心を動かす、何かがある。 悲しんでいるようにも見え、 怒っているようにも見えた。 だが滲み出す気はひどく優しく、心地良い。 「…似てる……。」 「…あぁ!?」 箸を置いてぶっきらぼうに問い返す声に微苦笑し、友枝は仏像を置き、再び寝てしまった。 何かを懇願するように合掌する仏像は、卯月のうららかな日差しに照らされて、僅かに微笑んだ。 「入りますよ。」 音を立てず襖を開けた唯恵は、空の食器を見て驚いた。 「もしやと思いましたが…。二日間、ろくに物を召し上がっていなかったので心配したんですよ。」 そう言って唯恵は尚晴に微笑んだ。 「……唯恵殿。少しの間友枝を見ていて下さらんか。」 「勿論。ずっとそこで動かずだったでしょう。身体も動かして来なさい。」 「忝ない。 配膳は何処に?」 尚晴が食器に手を掛ける。 「後で説明致す。今回は私が持って行くからゆっくりして来なさい。」 尚晴は頭を下げて部屋を出て行った。 「……唯恵殿。」 唯恵が振り向くと友枝が天井を見つめていた。
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