戦の華

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「美味しい………。」 素直な感想だった。 贅沢過ぎるほどに温かいもので、体が満たされる。 「そうか…。」 それだけ言ってまたふーふーと粥を冷まし、黙々と友枝の口元に運んでいく尚晴は、まだ怒っているのだろうか。 心なしか表情が固い。 「……友枝。」 「ん……?」 「悪かった。」 友枝の予想に反して、尚晴はそんな言葉を呟いた。 「何で…?」 「あの時お前の言葉を聞いてやれば、あんな醜い傷痕を、…二度も付けずに済んだ。」 友枝が目を見開く。 「……見たの………?」 尚晴は斜めに目を伏せた。 「…この寺には女がいなかったからな。 仕方が無かったんだよ。」 「………。」 傷痕を見られたことに、言葉を無くす友枝である。 悪いことをしていないのに小さくなって神妙に押し黙る尚晴に気付き、友枝が明るい声音で微笑んでみせた。 「手当て、尚晴がしてくれたの? ありがとう。」 尚晴はそんな微笑みを見てそっぽを向いてしまった。 ぽりぽりと、頭を掻く。 「まだ粥、残っているぞ。」 「ん。貰っとく。 ありがと尚晴。」 ゆっくりとした時間が流れ、いつの間にか爽やかな東雲(しののめ)から、昼間の温かい日差しに変わっていた。 「ごちそうさま。 尚晴はちゃんと食べたの?」 「朝はな。」 そこに唯恵がやってくる。 尚晴の精進料理と、友枝の粥を持って。 「………。」 二人は無言で、今やっと空になった粥の茶碗と新しい茶碗の間で視線を泳がせた。 唯恵が空の茶碗を見て破顔する。 「この分だと回復も早そうですな。次は五分粥でいけますかな。」 笑顔でお礼を言い、…そして唯恵が去った後の二人。 「さぁ昼にするか。 ほら今度は茶粥だぞ。」 粥を手に取り見せる尚晴に、まじまじと見つめる友枝。 「………。ごめんもう食べれないわ。…尚晴食べない?」 尚晴は苦笑して、行儀悪くも玄米の上に粥をぶっかけて掻き込んだ。 (…どういう食べ方?) 友枝の目が半開きになる。 窓の外には遅い、鴬の声。 「そういえばなんかガリガリ音がしてたけど…何の音?」 尚晴は名残惜しそうに最後の揚げ豆腐を見つめていた。 「何?欲しいってか??」 「違う。」
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