三十六

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そうである事を願う。 願いながら…、ハッと何かに思い至り、総司の方を振り返った。 …複雑だ。 (人間ってのぁ、  身勝手な生きモンだな…。) うっすらと自嘲しながら荷の方へ向き直ると、思った以上に着物を散らかしてしまっていた事に気付いた。 (後々うるさそうだ…。) 「散らかされた」と怒る諒の顔が、容易に想像出来る。 几帳面にたたみ直して着物を戻していると、今度は着物の間からさらしが出て来た。 (そういやアイツ、  背中に傷があるとか言ってや  がったな…。) 横浜の出で、家族を亡くした。 諒の口振りから、一度に家族全員を喪ったのだと察した。 そしてその時に負ったのか定かではないが、背中には大きな傷があるとか…。 それぐらいの事しか、京に来る前の諒の生い立ちは知らない。 たが確実に言えるのは、総司と同じく…諒も一度、居場所を失っているという事だ。 親兄弟だけでなく、身寄りも無い。 冗談めかして自らを「天涯孤独」と言った諒…。 (…そうか。  だからおめぇらは    似てやがるんだな…。) まるで本物の兄弟のように仲睦まじい総司と諒。 藤堂と手合わせした時の諒の目が、…空気が総司のソレと似ていたのに納得した。 .
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