日曜日

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私が小学校にあがった時、お母さんがくれたのは小さなミッキーマウスの縫いぐるみ。 継ぎ目が沢山ある、不細工な縫いぐるみ。 夏の晴れた日は、一緒に日向に出て太陽の下で昼寝をした。夕方、家に連れて帰る頃には、暖かいお布団の香りがした。学校に行かない日はいつも一緒に遊んだ。遊んだ、っていってもただそこいら中を連れて回っただけ。私は他の子達とは一緒に遊ばない子供だった。 10歳になった時、お父さんは家を出ていった。いつも夜遅くにしか帰ってこなかったし、私にとっては居ても居なくても、変わりのない存在だった。 お母さんが泣いているのを見て、私はミッキーマウスを押し入れの奥にしまった。少し前に入選した、学校の風景を描いた絵画の下敷にして。 小学校の6年生になった時、好きな子が出来た。いつも一人で、図書室にいる、割と無口な子だった。割と、というのは私と比べて、という意味で、私とその子とでおしゃべりするときは彼の方が良く口を動かしていた。 彼は私に、ことあるごとに本を勧めてきた。それは大抵、読めない漢字が沢山の、難しい本ばかりだったけれど、私は彼に嫌われたくなかったからそれを辞書と一緒に持ち歩いて読んだ。 中学生になって、私とお母さんはあまり口をきかなくなった。私はお母さんのことが好きだったし、お母さんもそうだったと思うけれど、なぜか、会話をすることが少なくなった。 しばらくして、お母さんが家に男の人を連れてきた。再婚、という言葉を聞いて、私は、おめでとう、と言った。
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