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月明かりが少女を青白く輝かせていた。
病室の窓は大きく開け放たれている。カーテンはレースの物も分厚い奴も夜風に靡(なび)き、緩やかに、時に激しくはためいていた。
月明かりといっても本物じゃない。
紛(まが)い物もいい所だろう。
中界の空はドーム型の天井に季節や時間帯を考慮した立体映像を流しているに過ぎないし、降り注ぐ光は照明器具の発している代物だ。
少女は、高級ホテルの上等な部屋ってこんな感じかなと思わせる病室の中を、右に左にゆらゆら揺れ動きながらうろついている。
さらさらと背中を流れる漆黒の髪の毛。
頼りない華奢(きゃしゃ)な体型。
歯も肌もゆったりとした患者衣も靴下も人口の青白い光に染まっている。
つぶらな瞳が煌めいて、小振りな唇からはハミングが微かに漏れ聞こえていた。
俺は声を掛ける所か、息さえ潜めて物音を立てないように身体を固くして突っ立ったまま、少女を見守る。
病室の入口で全身を晒していた俺に、少女は一度も顔を向ける事はなかった。
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