プロローグ② 下界第十五外地区エメラルド街富士ビーチ

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まん丸いお月様が幻想的な光を放って、あたし達の世界、上の連中が言う所の下界を、青白く染め上げている。 四月九日。 森の中に隠し置いたグラウンドキャンピングカーから外に出たあたしは、鼻から美味しい空気を吸い込むと、それをゆっくりと味わい吐き出した。 両手を握って伸ばし、目をつむったまま身体を突っ張らせると、んん~んと唸って開放感に浸る。 肩を竦めて首をこきこき鳴らし、テキトーな柔軟体操で以って身体の節々を解して行く。 それに一区切り付けて、青白い世界を満喫しつつ富士(ふじ)ビーチへと向かった。 月明かりを浴びた神秘的な樹木のトンネルを抜ける。 深呼吸して森林浴を楽しんでいると、直ぐに潮の香りと、波の満ち引きの音が不粋な邪魔をして来た。 あたしはどちらかと言えば、潮の香りは苦手。 香りなら緑豊かな木々の醸し出すものの方が数段素晴らしいと確信している。 しかし音で言うならば、波の音色は格別だ。 森林浴に置いても、小川のさらさら流れる音、滝のどうどうと流れ落ちる音、鳥や虫の鳴き声、枯れ枝や枯れ葉なんかを踏み締める音等が不可欠と言うもの。 こういう事を言うと直ぐに、それは科学的にはマイナスイオンどうとか、リラクゼーション効果だ癒しだと、蘊蓄を語りたがる奴がいるが、小難しい理屈は正直どうでもいい。
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