3.ヴァイオリニストというもの

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ニューヨークのJFK空港に降り立った僕は、あまりの寒さに思わずジャンパーのチャックを上まで上げた。シドニーは夏だったのに、ニューヨークは厳寒だ。なんといっても今は2月なのだから。 「おかえり!」 ポンと肩を叩かれ、振り向くとルドがいた。 「風邪引くぞ。」 そういうと、彼は手に持っていたコートを僕に着せ、マフラーを巻き、手袋をはめてくれた。一気に真冬のニューヨーク仕様だ。 「ただいま。」 ルドに抱きつく。 暖かい抱擁に、帰ってきたんだと実感する。 「大丈夫だったか?迷子にならなかったか?」 彼の質問に、うんうん頷く。 「シドニーじゃ良い演奏をしたらしいな。G社のシドニー支社長が絶賛だったぞ。」 「うん。」 「何でも、男の哀愁が漂っていたらしい。新境地だな。シドニー支社にディスクを頼んでるから、届くのが楽しみだ。」 「うん。」 「…。」 「…。」 「いつまで抱きついてるんだ?」 「…。」 「いい加減、離れろ!」 「やだ。」 「またホモ説が流れるぞ。こら。」 「やだ、やだ。」 「おいっ!」 「やだー。」 僕は意地になって彼に抱きつく。 迎えに来てくれて、本当に嬉しかったんだ。 きっと母も妹も留守の、無人のあの家に一人で帰るなんて、今の僕には寂しすぎるから…。 僕はツンと出てきた鼻水を、彼のマフラーに押し付けた。
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