深窓の姫君

4/13
2806人が本棚に入れています
本棚に追加
/1160ページ
 その頃、皇帝の前にいなかった娘が一人自室に篭っていた。彼女の名はネヴラスカ。夜風にそよぐ薄い御簾から出窓に出て手摺りに寄り掛かると、暗い瞳で夜空を仰ぐ。  末娘の彼女は一際父の美を受け継ぎ、いつか皇帝の妻達を抜いて国一番の美女になるだろうと噂されている。それを脅威に感じている妻達は彼女の美を妬み憎む。皇帝は我が子であろうと見初めた女を必ず我が物にするからだ。彼女は讃えられ、崇められ、同時に手酷く敵意を向けられる。  彼女の肌はムーナ人らしく白く透き通り、染みくすみは一つとして無い。瞳は海の青、唇は肌に咲く薔薇のように鮮やかな紅。夜空よりも黒い艶やかな髪は背丈よりもなお長く、光り輝きながら床まで滝のように流れ落ちるばかり。こめかみ辺りに一筋の銀髪が流星のように混じっている。  その姿を見たものは美の女神に対峙したかのように魂を抜かれてしまうだろう。彼女にとっては煩わしいことでしかないが。実際に彼女の姿を見たことがある男はほんの一握りだ。
/1160ページ

最初のコメントを投稿しよう!