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カツン。カツン。
赤いハイヒールが狭い階段を登る音が騒がしい街に響く。
―――カラン、
「久しぶり、ママ」
赤いハイヒールの女が控え目に微笑んだ。
「あら、なっちゃんじゃない!本当に久しぶりね。今まで何してたの」
「座ったら?」と自分の前の椅子を薦める。
「いろいろね。最近仕事が忙しくって」
薦められた椅子に女が座った。
キィ、と椅子が軋む。
「……そういえば、小さい頃親に"パパとママどっちが好き?"って訊かれて、選べなくて泣いちゃった事あったなぁ」
女が笑う。
「親なら一度は訊く事だわ。……何か飲む?」
「ううん。これからまた仕事だから。お水くれるかな」
「そう。あんまり働きすぎちゃ駄目よ?」
「ん」
ママがカウンターテーブルに氷の入った水を置く。
カラン。と澄んだ音を鳴らして女は一口水を飲むと、縁に付いてしまった真っ赤な口紅を親指で拭った。
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