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またたびまる@留守にしがちさん [「Lavenderを、ただ一滴」へのレビュー]
2017/10/30
髪を切る。

変化したい時、武装したい時、いまとは違う何者かになりたい時。
こと女性にとって、髪型を変えるというのは得てしてそのような時だ。

本作では、美容師である主人公が昔の同僚に髪を切ってもらうまでのストーリーが丁寧に描かれている。

かつての仕事への情熱が、肩肘を張って『頑張って』きた毎日によってすり減っていく。家での居心地のなさ、恋人とのすれ違い、仕事でのミス。ひとつひとつは致命的なダメージとはいえなくても、積もり積もれば重さで動けなくなっている。惰性という名の思考放棄は時に自己防衛でもあるのだろう。

仕事も立場も違うはずの主人公の気持ちが痛いほど分かるのは、気づけば息を詰めてページを進めてしまうのは、誰しもが持ったことのある『うまくいかない』感情を、筆者がことリアルに描いているからだろう。作中に出てくる自動巻きの腕時計を始めとした小道具も、効果的に作中の世界観を演出している。

夢を諦めて美容師を『辞められた』弘樹と、それでもこの道で生きていくと決意した主人公と。
恋人ではない、けれど確かに互いを信頼しあっている二人。
だからこそ届いた『お疲れ様』。
それは等身大の救いの言葉、なのかもしれない。
きっと疲れている心に響く一編。堪能させていただきました。
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