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第2章

-3-


田辺くんがポッキーを

4.5本まとめて口に入れ、

パキッと前歯で折った。


バリ、バリ、といい音をさせながら、

もう一方の手で雑誌をめくる。



「で、――もうヤッタの?

板東先輩とは」


「……田辺くん……」



わたしの渾身の睨みにも、

彼は全く動じなかった。


「へえー、まだかあ。

椎名はほんと、

奥手なんだか早熟なんだか

わかんねえなあ」


「な、なにそれ、早熟って」


「みんな言ってんぞ」



田辺くんはポッキーの中身が

空になっている事に気付くと、

蓋を人差指でひっかけ、

ごみ箱にぽいと落とした。


カコン、と間の抜けた音が響く。

3


「清純そうなのに、

放送の時になるととたんに

キャラ変わるって。

ぐっと大胆な女になる、みたいな?

……あ、自覚、ない?」


「そんなこと言われても……。

よく分かんないよ」


「お前、顔は幼いじゃん?

それがたまんないらしい、マニアには。

お前の彼氏も、そうなんじゃね?」



 ……マニアって……。



「だから、速攻で押し倒されてるかと――」

「田辺くんっ」



精いっぱいの抗議をして、

……ちらり、とテーブルの

向こう側を窺う。



「……」



……機嫌、わるっ。


春山先生は、

わたしたちの会話が

耳に入っていないかのように、

全くの無表情で投稿用紙を眺めていた。

4

木曜の放課後。


今日、先生は始めからこの調子だ。


話しかけても生返事か、無視。


二人きりの重苦しい放送部室に

田辺くんが入ってきてくれた時は、

助かった、とすがるような

気持ちになったけれど、開口一番、



「椎名、お前すげえじゃん。

サッカー部の王子様と

付き合い始めたんだって?」



と言い出した時には、

思わず両手で彼の口を塞ぎたくなった。

5

「おーし、そろそろ行くかあ」



立ち上がる田辺くんを、

思わず見上げる。



「えっ……も、もう行くの?」


「これから俺バイトだもん。

椎名、今日は坂口の分の下校放送、

よろしくな」


「あ、うん……それはいいんだけど

――あのっ」



田辺くんは手早く荷物をまとめ、

あっという間に出て行ってしまった。



「……」



……これだけ部屋の空気を

かき乱すだけかき乱しておいて、

……さっさと帰っちゃうんだ……。


わたしは内心ため息をつき、

田辺くんが残して行った雑誌に

恨めしい視線を送った。


どうしよう……。

先生が座ってるから

正面、向けない……。

6

「椎名」


「は、はいっ」



ぴょこっと姿勢を正し、

先生の方に向き直る。


春山先生は相変わらずの無表情のまま、

じっと原稿に目を落としている。



「お前さ。

……ちゃんと避妊しろよ?」


「……そっ、そんなこと、

わたし……してませんし……」



消え入りそうな声で

モゴモゴしていると、



「これ。読んでみ」



先生が、一枚の投稿用紙を

差し出した。


受け取って頭の文章を

黙読したわたしは、

ハッと息を呑んだ。



『私は今、妊娠しています』



見ると、先生の顔には深刻そうな

教師の表情が浮かんでいる。


わたしは続きを読み始めた。

7





先月、数人の男子に

乱暴されました。


ただし、それは合意の上でした。


私は自分の好きな人を助けるために、

交換条件として

それを受け入れました。


妊娠がわかったのはつい最近です。


このまま続けていったら、

どんどん被害者が増えてしまいます。


このメッセージを放送で流して、

どうか……彼女たちを

救ってあげてください。


お願いします。


匿名希望





読み終えた時、

自分の手が震えている事に気付いた。

8


「これって――」


「いたずらだと、思う?」


「……」



わたしは考え込んでしまった。


印象だけで言えば、

とてもイタズラとは思えない。


心から苦しんでいる、

絞り出すような思いが

この文章からは感じ取れる。



「まあ、

……どっちにしろ『恋パラ』で

採用するのは無理、だな。

放置するわけにはいかないから、

まずは主任に相談してみるよ」



先生はそう言って、

重いため息をついた。



『このまま続けていったら、

どんどん被害者が増えてしまいます』



続けるって、

……何のことを言ってるんだろう。


9


もう一度メッセージに目を落とし、

キーワードをなぞる。



……合意の上で……。

……交換条件……。

――妊娠……。



ぞくりと寒気がして、

わたしは自分の身体を両腕で抱えた。


もしも自分が彼女の立場だったら、

とても耐えられない。


どういう事情なのかは分からないけれど、

……好きな人のためにそこまで

出来るものだろうか。



――先生のために、自分の体を……。


 
春山先生の顔をじっと見つめてから、

慌ててその思考を打ち消す。



――違う。


わたしが思い浮かべなきゃいけない相手は、

板東先輩だ。

10