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愛するきもち

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『店舗責任者 各位4月16日付にて、以下の者に人事異動を命ずる。』



半月くらい前に、店宛に送られてきたファックスに私は目を通す。

数人の名前が並んだその中に、見覚えのあるフルネーム。


【前・関西本社営業部 荻野健 関東地区エリアマネージャー】



ついに、この日が来てしまった。

憂鬱で仕方なかった春の人事異動の発令。


別れた直後に、関西の本社に移動になった健。昇進組の彼とは、もう一緒に仕事をすることはないと思っていた。

それで構わないと思っていた。


それなのに……現実は、思い通りにはいかない。



今日は朝から挨拶がてら彼がやってくると、事前に聞かされていた。

憂鬱な気持ちを抱えながら、そのファックスを丸めて屑籠に入れ、私は開店作業を進めた。


そして11時過ぎ、まだ開店して間もなくだったので、お客さんのいない店内。

爽やかな笑顔を浮かべた彼がやってくると、皆に声をかけてカウンターへと呼び寄せた。



「今月から、ここの店舗を含むエリアを担当することになった、マネージャーの荻野です。」



その大人びた笑顔を見るのは、久しぶりだった。こうして一緒に仕事をするのも3年ぶり。


出逢った頃は、まだ仕事に慣れていなくて、失敗するたびに励まされた。


いつも強気でみんなを引っ張っていく姿は、ドラマとかで見る理想の上司像で。

そんな優しさに凄く惹かれて……先に好きになったのは、私の方だった。



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あの頃と変わらず頼り甲斐があって、人望の厚い健。

そんな彼は、アルバイトの子たちの間でも人気があった。


特に……女の子のバイトからは。



「荻野さんって、今フリーらしいんですよ。」



瑠里ちゃんが嬉しそうに顔を緩めながら、私に耳打ちしてくる。

その後ろで話を聞いていた、社員の大槻君がにやりと笑いながら彼女を窘めた。



「下村さん、荻野マネージャーのことお気に入りですね。」


「やだあ! 大槻さんってば!!」



すると恥ずかしかったのか、思いきり彼の背中を何度もバンバンと叩いていた。

少し迷惑そうな顔をしつつも、人の良い大槻君はただ笑っているだけだった。



健はあの後、30分ほど店内を視察した。

それから瑠里ちゃんたち、アルバイトメンバーを何かを楽しそうに談笑している姿を見た。


そして午後は、他の店舗の挨拶回りがあると言って、すんなりと帰っていった。


私と彼は、仕事の内容を少し話しただけだった。

あくまで……上司と部下として。


まだ、私の中には戸惑いがあった。彼と再び一緒に仕事をすることに。


忘れられるはずなんてない。

それが今の想いとは違っていても、傷ついたことも、大好きだったことも。



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