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-4-


「あの人とは、連絡取ってる?」



私が見上げると、

先生はこちらは見ずに、

テレビの画面に目を向けていた。



「あの人って…」


「…白井さん、だっけ」



先生が、さりげなく

その名を口にする。



「…いいえ…」



わたしは首を横に振った。



「…あの時、…もう、

会いに来ないって

言ってましたから…」


「…そう」



春山先生はビールを

こくこく、と飲んでから、

手を伸ばして缶を

テーブルの上に置いた。



「この前、

加賀の入院してる病院で、

見かけてね」


「えっ」



先生はソファにもたれ、

わたしの顔を見た。


「…少し、話した」


「……」

2


「加賀の怪我を、心配してたよ。

…たぶん、心から」


「……」


「加賀がこうなったのは、

自分のせいだって言ってた。

…たぶん、本気で」


「……」



白井さんの顔が浮かび、

…最後に別れた時の

感情が込み上げそうになって、

わたしは顔を伏せた。



胸が痛んで、思わず

パジャマの裾を握りしめる。



俯く私の頭に、

先生の手のひらが

ふわりと載せられた。

3


「あの人、悪い人じゃ、ないね」


「……」


「お前はちゃんと

分かってたんだな」



いい子いい子、と頭を撫でてから、

先生は前に屈んで、

わたしの顔を覗き込んだ。




必死で涙を堪えるわたしを見て、

ふっと笑う。



先生が本当の白井さんを

分かってくれたような気がして、

わたしはとても嬉しかった。



先生の首に手を回し、

きゅっと抱きつく。



「ありがとう、先生…」



先生はわたしの背中に手を回し、

ポン、ポン、と叩いてくれた。



「…それから、

お前のことも、言ってたよ」



 優しい声が、耳元で囁く。



「『萌ちゃんのこと、

俺に譲ってくれませんか』って、

言われた」


「…え…」

4


先生がわたしの

両脇に手を挿し込んで、

ひょい、と持ち上げた。




ソファの隣にポン、と下ろすと、

ぐっと顔を近づけ、

至近距離から見つめる。



「…せ、先生…」



先生の唇がそっと

鼻の頭に触れる。



コハク色の瞳が、お酒のせいで

艶やかさを増して、

わたしをじっと見つめる。



…危ない…。

…このまま、見つめ合ってたら…。



わたしなんて、跡型もなく

溶かされるに違いない…。


5


「…あの…」


「…うん」


「…ね、先生…」


「ん?」


「せんせ…」



顔がどんどん近づいて来て、

ちゅ、とキスされる。



…もう…。

…全然、聞く気、ないし…。



「ね、…聞いて…」


「…聞いてるよ」



言いながら、再び先生の顔が

近づいて来たので、わたしは

先生の唇に指先を当て、

ぴたりと止めた。



「…待って…」



口を押さえられた先生は、

急に大人しくなって、

黙ってわたしの顔を見ている。



「なんて、答えたの?

…わたしを譲ってくれって

言われて、…先生は何て…」


6


先生は、自分の口元に

添えられたわたしの手を掴んで、

あっさりストッパーを解除した。



「丁重に、お断りしたよ」



手を握ったまま引き下ろし、

顔を寄せる。



「お前を譲れるわけ、ないだろ…」



独り言のようにポツリと言って、

先生はわたしの唇を塞いだ。



…先生…。



先生の手をきゅっと握り返す。



…大好き…。



挿入って来た先生の舌は、

ビールで少し冷たくなっていた。



味は、確かに苦いのに、

…先生のキスが、とても甘くて…。



ほんのり漂うお酒の香りで、

くらりとめまいを感じる。



…酔っ払いそう…。

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