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譲渡

……慣れてしまった。

依舞はもういないのだという事実に直面して絶望して、それでも尚、紛い物を求めようとすることに。

小難しい言い方を避けるなら、死んだ彼女の代わりに他の女を連れ込んで殺していることに慣れた、ということだ。

でもそういう意識を自分の中に充満させたら僕の全てが崩れてしまう。

僕は反抗期の子供のようなものだ。

自分の中の理屈が難しいもので、他人を納得させられると思っている。

そう、客観視は出来る。

ただ、その客観視はたまにしかしない。

自分の欲望を押し込めないといけないときだけにしか。

2

僕が連れ去ってくる女の子は大まかに分けると四パターンがあった。

パッと見が依舞に似ている子、性格が依舞に似ている子、体付きが依舞に似ている子、纏う雰囲気が依舞に似ている子。

パッと見が似ている子は話せば話すほど依舞から遠ざかっていく。

連れてきても長くは生かしておかないことが多かった。

他三人は一緒に生活を共にすることもあった。

性格が似ている子。

僕に従順でいてくれる子。

僕はそういう子をマリオネットと呼ぶことに決めた。

体付きが似ている子。

動く体を見ていたくなる子。

僕はそういう子をハーロットと呼ぶことに決めた。

纏う雰囲気が似ている子。

家族とか社会とかから弾かれたような子。

僕はそういう子をペインと呼ぶことに決めた。

3

女の子を連れ去ることに対する抵抗が薄れ、慣れて手際がだんだん良くなり……油断していたんだと思う。

……まあ、そもそも抵抗なんてあったのかと問われた返答に詰まるがそこはどうでも良い。

とにかく、油断していたんだと思う。

少なくとも、彼女に対しては過剰なほど警戒心を抱いておくべきだったんだ。

――ニッコリと笑って、僕の車の助手席の窓を叩く女。

口の動きから察するに『こんばんは』と言っていたんだと思う。

このまま走り去ってやろうかと思ったが、笑顔のまま助手席の窓を叩き続けている。

開けない方がめんどくさいことになりそうだったので仕方なく開けた。

4

「こんばんは、水谷さん」

「だからもう水谷じゃないんだってば」

「新しい名前聞いてませんし」

溜め息をつきながら答える。

彼女は相変わらず笑顔のままだ。

後部座席に目が行っていない訳がないのに。

「いいの」

「え?」

いきなり何を許可されたのかと思って聞き返す。

「ご飯の飯に野原の野で飯野」

名字の話か、と気づき頷く。

「ところで」

今やっと気付いたとでも言うかのようにゆっくり後部座席の方に顔を向ける。

「お取り込み中だったかしら?」

5

「そうですね」

嫌そうに応える。

早くどっかに行ってくれ。

行くわけないけれど、そう願ってしまう。

「この車の中の状況だけ見たらね、横になってゆっくり眠りたい彼女さんが後ろで寝てるのかなーと思うわよ。でもね」

目が妖しげな光を帯びる。

「生憎ね、こんな何もないところに停車してある車に不信感を抱かないほど馬鹿じゃないのよねー私も」

どこから見ていた?

どこから尾けられていた?

考えたけれど、答えは出てこない。

6

「この子、何人目の女の子?」

水谷――改め、飯野さんはクスクス笑いながら尋ねてくる。

「一緒にお買い物してた彼女さんと別れてから、さ」

「僕の交友関係にそんなに興味があるんですか?」

出来るだけ平静を装って答える。

「ええ、とっても」

ふふっ、と笑う。

「人通りの少ない道で、いきなり眠ったみたいになっちゃった女の子を自分の車に連れ込むなんて交友そうそうないものね」

わざとらしく首を傾げながら僕の顔を覗き込む。

「それとも、誘拐とか拉致って言葉に置き換えたほうが適当かしらね?」

7

……どうする?

この人も始末するか?

いや、でも夫も子供もいる中年女性が行方不明になるのは、若い独り身の女性が行方不明になるのとは訳が違う。

男の欲求を満たすために無差別で狙われた、という図式が成り立ちにくくなるからだ。

……でも、この人と僕の関係なんてほとんど無いに等し……いや、駄目だ。

父親がいる。

僕とこの人が揉めたことを知っていて、かつ母親が行方不明のまま見つかっていないことを知っている人。

母の件に関しては僕を疑っていないようだが、この人まで行方不明になったら僕が疑われるのは明白だ。

8

「そういえば良成君」

女の子を拉致してるんじゃないのか、とカマをかけてきているはずなのに

(実際に現場を見られているわけだけれど)

何が『そういえば』なんだ、それより重要なことがあるんだ、と思ったけれどその次に続く言葉で僕はまた返答に詰まることになる。

「お母さん、まだ見つからない?」

これっぽちも心配していないであろう声と顔。

「行方不明って怖いわよね。死体が出てこなかったら行方不明、でしょ?一応生きてるって設定になるわけだものね」

わざとらしく溜め息をつく。

「書置きでもあればどっちか分かるのにね」

9

「出ていきますーって書いてあったらどこかで生きてるって思えるし、内容が遺書だって思えるものなら死んでるって分かるわけだし」

そこまで言って、ハッと気づいたような顔をする。

わざとらしい。

あえてわざとらしく見えるようにしているんだろうけれど。

「でも、それって自分から行動を起こしたときしか使えない手よねー。事件に巻き込まれるって予測なんて出来ないし。――さて、ここで問題」

僕の顔をじっと見つめる。

「私の今の状況は、偶然事件に巻き込まれる所でしょうか、それとも自殺行為でしょうか?」

「……何を言っているのかよくわかりませんけど」

10