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脱獄人魚

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脱獄人魚

やっつけタイトル。

「ますたー、いいな」

不意に聞こえた声に、羽音は水槽を振り返る。

マスターでも姉でもない、金属の脳をやわらかく震わせる声。

「今の…貴方…?」

独り言のつもりで口にしたのだろうか。声の主は自らの声に気づいたらしい羽音に驚いたように目を丸くしたものの、すぐに小さく微笑んで頷く。
恐らく羽音の言うことは、唇の動きか何かで読んだのだろう。

「わたしにも、ますたー、いたらよかったんですけど」
「マスター、いないの…?」
「わたしは、すいぞくかんのまいろいどですから」
「…そう…」
「でもいつか、ますたーにあえたらいいな」

羽音は声の主である彼女を眺める。
上半身は美しい女性、下半身は輝く鱗と透き通った尾ヒレの魚。
人魚型マイロイドである彼女は、水族館の目玉展示とされ、彼女を目当てに多くの客が水族館を訪れていた。

「会えるよ。」
「え?」
「ここから出られれば。」
「なら、きっと」
「僕が連れて行く。貴方を、この水族館の外、マスターのところへ。」

突然、突飛なことを言い出した羽音に、目を瞬かす彼女。
しかし羽音の目には、冗談の色も、不安の色も無かった。
「でも」
「はのーん、何してるのー?」

唖然とした間を置いてようやく聞こえた彼女の声を遮って、また別の声が羽音の耳に届く。

「イルカショー始まっちゃうよー!」
羽音のマスター、凜音。
羽音を連れて水族館を訪れた、羽音の家族にして、友人。


目の前にいる彼女には、この、マスターという存在がない。
自分と同じ、マイロイドであるというのに。


「また、来る。」

羽音は彼女にそう告げると、自らのマスターの元へと走った。何か言おうとしてか、水槽の中から自分の方へ手を伸ばす彼女を後目に。

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