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1.はるか

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1.はるか




 規則的な機械音が絶えず聞こえていた。


 辺りは暗い。


 いや、実際は暗くなかったかもしれない。

 私はずっと瞼を固く閉じていた。



 そこは暖かく、心地良い。

 優しく守られているような匂いに包まれ、常にひどく眠かった。

 一日の大半を真っ黒い夢の中で過ごす日々が続く。



 何も考えられない。


 私は全てのことに対して受け身であった。

 与えられたモノで生き、与えられた場を与えられたように生きる。



 生かされる。




 失われていく意識の中で、いつも必死に考えていた。




 私は誰?

 なぜ生きているの?




 私は何?

 なぜ存在しているの?





 闇に呑まれる。



 確かなモノは、目前にしたこの闇とそれに対する恐怖だけ。


 この夜が明けるのはいったい、いつなのだろう?



 短すぎる昼の明るさに焦がれつつ、意識を手放した。












 闇に落ちていく。




 ▽▲




「……はるか」



 名を呼ばれ、跳ねるように上体を起こした。


「おはよーさん」


 顔を上げると、呆れ果てた友人の顔と目が合う。


「なかなか起きてくれないんだもの。見捨てようかと思った。ほら、次の授業、教室移動だから」

「え?」


 聞き返すと、更に呆れ顔になった。


「先週言っていたでしょ? 次の時間は実験だから化学室に来いって、先生が」

「化学室? ――ってことは、次、化学? 四時間目?」


 呆然として机の上に散乱する教科書を見下ろした。全て一時間目のものであった。


「もしかして、ずっと寝てた?」

「うん。爆睡。――何? 具合悪いの? 珍しいよね、はるかが居眠りだなんて」


 心配そうにのぞき込んできた彼女に、はるかは頭を振った。


「大丈夫、ちょっと寝不足なだけだから」

「寝不足? やっぱりテスト前だから?」


 夜更かししてまで勉強に励んでいるのかと聞かれて、はるかは曖昧に頷く。

 事実、生まれてこの方、テスト勉強などというものは、いっさいしたことがない。

 家庭学習なんて必要に迫まれ、仕方なくやるものだと思っている。

 だが、眠くなったから寝ていたという極めて単純な理由を今更説明し、訂正するのも面倒なので、適当な返事をしてみせる。

 すると、彼女はへえ~と驚きの声を上げた。


「はるかも勉強するのね」


 言い方が悪かったと思ったようで、あわてて言い直す。


「だって、はるかって、ガリ勉って感じしないから。天才肌って言うのかしら? なんか、苦労とか努力とかしなくても何でもできちゃうって感じよ。この間の模試だって、全国トップだったでしょ。しかも、5教科、全て満点!」

「よく覚えてるね」

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