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第一話 髪の毛へのKISS

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第一話 髪の毛へのKISS

髪へのキスは思慕の情。

   【1】


 警視庁特殊テロ対策課――。

 常時武装を許可されたその組織の紅一点、森川美沙は、課長である三枝崇警部を補佐する立場にある。

 警察組織の中でも取り分け武闘派揃いのむさ苦しい男所帯にあって、それを取り仕切る様はまさしく鬼女。付いた渾名が【夜叉姫】ときた。

 それでも彼女はそれを気にした風でもなく、むしろ誇りにさえ思っていた。

「鬼? 結構なこった。ナメられるよりはずっといい」

秀麗な顔に似合わず悪党顔負けの凶暴かつ不敵な笑みを浮かべるのを見た部下の一人は、寒くもないのに鳥肌が立つほどの恐怖を覚えたという。

 そんな彼女に対して平然と構える者が一人。

「可愛い顔しておっかない顔してんじゃねぇよ。ったく物騒なお嬢さんだこって」

美沙の班と通路を挟んで隣の班。美沙のデスクとも距離はあるものの隣に位置するデスクで、だらしなく椅子に凭れ掛かりつつ鼻糞をほじくっている男がいる。美沙と同様に階級は警部補、彼女の天敵ともいうべき存在で、名を木島智博という。

 美沙の鬼に対し、彼は仏と呼ばれていた。取り調べの際、容疑者を確実に落とす敏腕クローザーであり、容疑者の大半が彼の言葉に絆されて涙ながらに自供するという。彼の部下達も、その人懐っこく気さくな人柄に惹かれ慕っていた。上司である三枝の信頼も厚い。

 だが、美沙は知っていた。木島の本性は仏などではなく、自分と同じ鬼だということに。

 美沙は木島の前に立つと、だんっとわざと大きな音が出るように、手にしていた書類を彼のデスクに叩き付けた。

「木島、これは一体何だ?」

木島は表情一つ変えることなく、書類をちらりと見遣ると、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ああ、それ? 慎み深く謙虚な森川警部補に代わって、俺がエントリーしといてやったんだけど」

「なんで、私が、こんなちゃらついたミスコンなんぞに出なきゃなんないのよっ」

その書類とは、ミス警視庁コンテストの参加要項であった。

「だって、各部署から出てるんだぜ。うちから出ないってのは面白くないじゃん。こんな美人さんがいるってのにさ」

「必ず部署から出さないといけないという決まりはない」

「うん、ないね。でも、あんたは出るべきだ」

「断る」

「スタイル抜群なのに」

「セクハラまがいのショーなんぞ誰が出るか」

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