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とある片田舎にその場所はある。

山の中を少し歩いたところに、ひっそりと佇む朱色の鳥居。年月を感じさせるようにその柱には所々塗料が剥がれかけ、辺りに茂る蔓に腕を伸ばされている。それでいてその造りは立派で、今も揺らぐ気配が無いほどしっかりとしているので当分倒壊する心配は無さそうだ。

その鳥居、実は何時立てられたのか、あるいは何のために山の中にあるのかが分かってはいない。興味を抱いた地元の者が何度か過去の文献を漁り見つけようとしてもそれについて書かれた記述がまるで無く、結局不明という言葉で片付けられてしまっている。多くが不明だが更に不思議なことがある。

鳥居のその先、本来なら神社などがあるはずなのだが――――何故かそこには何も無い。

建物も無く、ただぽっかりと空間が広がるだけだ。背の低い雑草だけが鳥居の先に我が物顔で生えているばかりの、粗末な神様の通り道。昔は神社か寺があったらしい、という噂があるが現状はただの雑草畑だ。

そんな鳥居の傍には、まるで守るように二匹の狐の石像がそこに立っている。
狛犬のように片方は口を閉じ、片方は口を開けた狐は鳥居を挟むようにして仲良く並んでいる。
家も何も無い場所を守る対の狐の像に地元の人等はその場所を『お狐様の住処 』と呼ぶ。

昔からその土地に滅多な流行り病や災害などが起きなかったのは、きっとここに住むお狐様が守ってくださっているのだと信じられ、今でも時折お狐様の住処に手を合わせにくる信仰心の深い人もいる程その土地では狐は神様の遣いだと云われてきた。

だが近年では都市の開発が進み、機械や文明が発達していく最中において若い者は眉唾物の狐様を信仰する心も興味も無く、都会に出ることを夢見るばかり。

今となってはその地元でもお狐様を知るのは年を取った老人が殆どで、人々の記憶から消えるのも時間の問題かもしれないと、その日訪れた枯れ木のような手を合わせた老婆が淋しそうにぼやくが、狐様から返事が返ってくることはない。
曲がった腰を伸ばし、狐の像の前に老婆はお狐様が好物だという油揚げを数枚重ねて皿に乗せたものを置いて帰路に着く。


その後ろ姿を見送る無機質な狐様。誰もいないその場所から不意に密やかに笑う声が零れ落ちた。

「それが人間の性と云うものよ」

声のした方に人の姿は無く、ただ皿の上の油揚げだけが何処かに姿を消していた。

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