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第1章

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第1章

 大学三年、冬休みを迎えた今も「夢を追うか」「無難に生きるか」で迷いながら、俺はバイト用の定期で地下鉄に乗って、昼飯代を浮かせるため、目的地へ向かっていた。
 昨日というか今日の深夜、同期のサトーから「俺の彼女を紹介するついでにちょっとした合コンをやるんだけど、マッツンが来れなくなってさあ。タケ、お前来いよ」とケータイに電話がかかってきた。
 一度断ると「わかってるって。バイトあるから午後になったら帰るんだろ? だから誘ってんだよ。飯もカラオケも俺が奢ってやる。向こうとこっち、最初は人数合わせておきたいじゃん。けど、顔がいいお前がずっといると、カワチのチャンスがなくなるんだよ。お前、ケチくせーからこういうのに金だすなら行かないタイプだろ。けどなあ、何事も経験だ。それに、奢りだから断らないよな。待ち合わせは今日の朝一一時。後で場所メールするから。お前のバイトの近くだし、交通費もそんなかかんないし、いいだろ?」と、俺を利用したいことを隠さないサトーの、地下鉄の定期券があるから場所によっては交通費ゼロで飯がタダという誘惑に、俺はあっさりとのった。
 上京後から今まで遊ぶ時間を削り、ギャルソンと家庭教師のバイトと、落研と寄席通い、個人での落語練習と大学での勉強がほとんどの生活をしてきたけれど、就職問題と大学卒業が近づきつつある今、このままではいられないと焦ってしまう。
 俺の夢は落語家になることだ。
 けれど、落語家で食える人たちは一握りだ。
 その一握りになれるとしても、相当の時間がかかる。
 親は俺の落語好きを知っていても、落語家になりたいことは知らないだろう。実家は無人駅のある田舎で、中学にも高校にも落研はなかった。だから、少しでも落語の練習に近い選択をと、中学の時は放送部に、高校では演劇部に入っていた。
 俺は現実を前に溜め息をつくと、ドアの窓に映る憂鬱な自分の顔に今一度溜め息をつきかけて堪えた。
 口元を隠すマフラーを少し指で下げ、自分の顔を見つめる。
 地下を走る車窓は、いつだって鏡のようだ。

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