/ 205ページ

一 自称神様拾いました。

(1/21ページ)

一 自称神様拾いました。

 ハルさんが亡くなったという知らせは、薫(かおる)の凪いでいた日常に波紋を落とした。

 ハルさんというのは、薫の住む七森町内の一角にひっそりと、しかし目を逸らせない染みのように存在していた屋敷の住人だ。

 夫に先立たれ、子供がなく、一人暮らし。広い屋敷の管理には目に見えて手が足りていなくて、じわじわと確実に朽ちていっていた。

 訃報を聞いたとき、家の寿命と同時にハルさんの寿命が切れたようにも思えたものだ。

「孤独死、かあ。それは寂しいよねえ」

 ジャージに身を包んだ薫は、軍手と鎌とマスクと雑巾、そして自治体指定のゴミ袋の入ったトートバッグを脇に抱えて、ハルさんの家に向かって歩いていた。

 ハルさんの家は、いわゆるゴミ屋敷。存命中はこどもたちにお化け屋敷だと揶揄されるような、やたら広くて、その分手入れの行き届いていない家だった。

 庭の樹木は伸び放題。雑草も生え放題。壁は剥がれて、屋根は一部瓦が剥がれ、凹んでいた。

 害虫、害獣。隣家の悲鳴は鳴り止まなかったが、ハルさんは耳を貸さなかった。

 だからだろうか。自治会の動きも早かった。

    

 ハルさんが亡くなったと噂が耳に届いた翌週に、まるで待ち構えていたかのようなタイミングで回覧板が回ってきたのだ。

《清掃ボランティア募集》

 ゴミ撤去の機会を狙っていたのかもしれない。

 そんな風に穿ってしまうようなポップで不謹慎なフォントで、まるで楽しいことのように書かれたお知らせには、ハルさんが身寄りのないままに孤独死をしたこと。

そして行旅病人及行旅死亡人取扱法という法律に則って、自治体が火葬をしたということ。

遺品整理を兼ね、掃除のボランティア(各家庭一人必ず出席、と書かれていて、ほぼ強制参加である)を募っていることが書かれていた。

 母と一緒に回覧板を覗き込んだ薫はぽつんと呟く。

「お通夜も葬式もないんだね」

「自治体って火葬まではやってくれるんだねえ。でも葬式とか遺品整理まではしないってことか。まぁお金かかるしね。うーん、この日は仕事だぁ……薫、掃除はあんた行ってきてくれる?」

 両親共働き、三人の兄はそれぞれ進学や就職で実家を出てしまっている。

 高校二年生で、そして春休み中である薫がこの役目を任されるのはある意味当然のこと。

「薫がいてくれて助かるわぁ」

という言葉に、調子がいいなあと思いつつも背を押されて、薫は頷いたのだった。

/ 205ページ

一 自称神様拾いました。

(2/21ページ)

みんなが送ったスター数

745

この作品にスターを送ろう!

明日のスターも待ってます!
(1作品につき1日1回 押せます)

作品に関する書籍情報

神様の名前探し

出版社:双葉社

発売日:2017/10/11

新着ピックアップ

急上昇ランキング|ファンタジー