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プロローグ

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プロローグ

私は知っている。
死から始まり、生へと終る。
この世界には、視えない壁があることを。

時を越えることは簡単。
空間を越えることも簡単。
距離も時間も意味のない泡のような世界。

組み込まれた死のプログラム。
目が覚めれば蘇る、沢山の私。
共有する意識の中で夢をみる。

繰り返す悪夢のような世界から、抜け出せる日が来ることを。

 *
 
 新年を迎えてから二度目の日曜日ということもあり、新宿は多くの若者や家族連れで賑わっていた。巨大なデパートが密集するこの地域は、多くの人々を惹きつける魅力を持っている。その内の一つ、新宿駅から直結しているデパートの中に多紀本結はいた。高校三年の冬といえば大学受験で忙しい時期ではあるが、結は既に推薦で合格が決まっていた。おそらく今年で最後になるだろうお年玉を手に、卒業後は長野の実家の仕事を手伝うことになっている友人、片桐悠月と一緒に遊びに来ていた。
「後で渋谷にも行こうね」悠月が嬉しそうに話しかけた。
「うん……」結は無理に笑顔をつくり、短くそう答えた。悠月とのショッピングは久しぶりだし、卒業したら現在のように簡単には会えなくなってしまうだろうから、この日をとても楽しみにしていた。でも、結には一つ気懸かりなことがあった。

 一昨日の午後、結は高校の教室で退屈な数学の授業を受けていた。三十人分の机と椅子が並び、そのうち三割程が埋まっている。結は目立たない一番後ろの窓側の席を選んだ。隣には悠月が座っている。
 奇妙な模様が描かれた問題用紙。補助線を引くことに気が付けるかどうかで難易度が変わる。気が付いてもどこに引くか、何本引くかでも変化する。余計な箇所に引けば、逆に難しくなるだろうし、延々と不毛な計算を繰り返すことになる。
 制限時間を三十分以上残して課題を終わらせた結は、教室の窓から外を眺めていた。あまり広くはない校庭の向こうに片側だけ開けられた校門が見える。門の両脇から左右に低い塀が伸び、その手前には葉を落とした小さな樹が等間隔に並んでいる。
 太陽は真上より少し西に傾き、冬の弱い光が窓外の景色を淡く照らし出していた。
 あれ……? 塀に平行して走っている車道をぼんやりと見ていた結は、なにかが引っかかったような気がして、ゆっくりと移動させていた視線を止めた。違和感を覚えた辺りに焦点を合わせる。人も車も動いているものの姿はなかった。窓の向こう側は時計が止まっている。そんな錯覚に結は囚われる。

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