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思い出話に花を咲かせて

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思い出話に花を咲かせて



カシャ。

病室のドアを開けると同時に、カメラのシャッター音が響いた。

その音を出した男の子が、カメラを構えたままベッドの上で振り向き、私の姿を確認すると、ふんわりと微笑んだ。

「おかえり、さくら」

「ただいま。また桜撮ってたの?」

「うん。今日もいい写真が撮れた」

私がベッドに近づきながら訪ねると、彼は満足そうに一つ頷いた。

ベッドのわきに鞄を置いて、カメラの画面に表示された桜を見ると、夕焼けにほんのりと染まりながらも自身の色を忘れず、儚く、しかし凛とそこにたたずむ五分咲きの桜の姿が映し出されていた。

「いいね、きれい」

呟くようにそう言うと、彼はくすくすと小さく笑った。

「さくらはそれしか言わないね」

「いいじゃない。いつだって本心から言ってるんだから」

「そうだね。それはわかるよ」

彼はカメラに視線を落とし、親指でそっと画面を一つ撫で、カメラの電源を落としてベッドわきの棚の上に置いた。




「早いね。もう八分咲きか」

病室から見える桜は、先ほどの写真とはすでに印象が変わっていた。

もうすぐ夜へと移り変わろうとしている空にぼんやりと浮かんだ、どこか妖艶で、そして手を伸ばせば消えてしまいそうな。

「すぐに満開になるね。私たちが出会った季節に」

「もう、2年も前なんだね」

彼に視線を移すと、彼もまた目を細めて桜を眺めていた。

ほとんど一日中そこにいるであろうベッドのシーツからは、少し湿った汗の香りがしていた。

「ねえ空、覚えてる? 空がクラスでした自己紹介」

「覚えてるよ。桜の写真の話でしょ?」

「そう」

目を閉じると、汗の匂いとともに空の匂いが鼻をついた。

あたたかな陽だまりを思わせる、やわらかく優しい匂い。

その匂いとともに、私は2年前のことを思い出していた。





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