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瓦礫に咲いた花

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瓦礫に咲いた花

「先生、さようなら」

 小さな頭が一斉に下がった。教壇に立つ僕も頭を下げ「はい、さようなら」と言った。

 帰りの挨拶が済み、子供たちは次々と教室を出て行った。整然と、列をつくるようにして廊下に出る子供たち。僕は最後の一人がいなくなるまで、その後姿を見送った。それから無人の教室を見渡し、職員室に向かった。

 自分のデスクに座ると、僕は大きく息を吐き出した。授業がようやく終わって猛烈な安堵感を覚えたからだ。今日はこれで教え子たちの顔を見なくて済む。緊張が一気に和らぎ、全身から力が抜けた。

「まだ慣れません?」

 椅子の背もたれに体重を預けていると、先輩の教師から声をかけられた。穏やかそうな顔をした、年配の女性だ。

「子供たちを相手にするのは大変ですか」

「いえ、そういうわけでは」

 椅子を回転させて先輩のほうに向き直り、僕は答えた。

 僕が新人教師としてこの小学校に赴任してきて一月ほどが経っている。その間に大きな問題は発生していない。子供たちはまじめで、素直に僕の話を聞いてくれる。授業は乱されることなく常に計画通りに進む。ただ……

「ただ、子供たちの顔が妙だなって思うんです」

「妙というと?」

    

「その、どの子の顔を見ても同じように見えるんです」

 最初は新人ゆえの緊張からくる錯覚かと思った。けれど、徐々に慣れてきてもその違和感は消えなかった。むしろ増大している。時折誰が誰かもわからずに、まるでみんな同じ仮面をかぶったように区別がつかなくなることもある。

「教科書を読んでる時も、体育の授業の時も、みんな無表情に見えてならないんです。言葉を読み間違えても誰も笑わないし、ボールで遊んでいるときも淡々としているというか」

 授業を中断するほどの障害ではなかったし、ノイローゼにかかるほどの悩みでもなかった。ただ、教師としての能力を自分で疑ってしまうことが時折あった。

「仕方ありませんね。こんな時代ですから」

 こんな時代、それはマスコミでもよく使われる言葉だ。曖昧なその表現は何度も耳にしている。

「まあ、慣れですよ、慣れ」

「そうでしょうか」

「それに、先生はこの土地ははじめてなのでしょう。そのせいもあるかもしれませんね」

 確かにこの町は全国の中でも特殊な位置を占めている。あの「過去」が子供たちに何かしらの影響を与えているとしてもおかしくはない。よその町で育った僕にはまだ理解できない何かが。

    

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