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パピコを買いに走る

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パピコを買いに走る


 コンビニで女の子とふたりでアイスをのぞきこんでいたら、女の子のスマホが鳴った。

「へー」

「どうしたの?」

「テニス部、アピール動画アップしたって。
 成神(なるかみ)くん、テニス部だよね。知ってた?」

「聞いてないんだけど…」

「はは。見る?」

 画面を向けられたので、「ども」と頭を下げる。

「どう?」

「まあ……ブナンって感じ」

「どんなの?」

 スマホの持ち方を変えて、ぼくのとなりに並ぶ。こういうときドキッとしてしまうのは、男のかなしさだなあ。

「ほんとだ。ブナンだ」

 部長による部活紹介が終わって、練習風景がうつしだされたとき、耳の奥にひとつの声が飛び込んできた。

「――――あ。今の成神くんの声じゃない?」

 こわい。

 どうして女の子の耳っていうのは、いちばんつかまえてほしくない音を瞬時につかまえるんだろう。

「え? 聞こえなかったけど」と、言おうと思って、やめた。ぼくは「やりすごす」ということに関して、とにもかくにも慣れていないのだ。

「あー…そうだったかもね」

「こういうのから聞こえる自分の声って、自分の声に思えないもんねえ」

 そう言うと、女の子は動画を停止してスマホをしまった。
 ふたり一致で「ブナン」採点した動画をこれ以上見る必要はないと判断したのだろう。

 そしてふたたびぼくらはアイスをのぞきこんだ。

「あたし、ピノにする。成神くんは?」

「ああ、ぼくはいいよ。アイスって、そんなに食べないんだ」

「えー! 夏になるとテニス部みんな食べてるじゃん!」

 よくわからないけど怒られてる感じがして、若干あせりながら自分の中のアイス愛をふたたび検索する。

「ああ、アレ! パピコは食べてたよ!」

 そう言うと、女の子は愛犬に「ヨシ」と言うようなやさしい顔をした。

「たしかに、ここにはパピコないね」

 よくわからないけど、なんとか無罪放免らしい。

 肩から力をぬくと、女の子はピノを持ってレジに向かっていくところだった。
 その後ろ姿にパピコの()が重なって、さらに一足遅れて、「検索結果 パピコ もっと見る>」という表示が重なる。

 ヒマなときのネットサーフィン中みたいに、ほとんど何も考えず「もっと見る>」を選択する。

 すると、急に大音量で耳の奥に自分の声が響いた。それは、さっきの動画からつかまえた声だった。


『――――先輩!』

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