/ 27ページ

海底の歌姫

(1/27ページ)

海底の歌姫

 私が歌い終えると同時にピアノの演奏もやむ。

(りつ)、最近、歌い方が雑になってないか?」

 兄の(そう)の言葉に私は、汗を拭いながら言う。

「えー? そんなことないよー。もし雑に歌ってたとしても溢れる才能がカバーしてくれるって」

 私は胸をはって答えると、踊るように自宅の防音室から出た。

 早く自分の歌声をアップロードしたい! 

 みんなに聞いてほしい!

 はやる気持ちを抑えきれず、一段飛ばしで階段を駆け上がり、自室に戻る。


 動画サイトにアップロードし終えると、私はパソコンの画面から目を離す。

 カーテンの隙間から見えるのは薄闇に染まった空。

「学校から帰ってきて、ずっと防音室に篭ってたからなあ」

 私はそう呟いて、ベッドに寝転ぶ。


 部屋が――むしろ家が私以外に誰もいないかのように静まり返っているのは両親が仕事なのと、兄がまだ防音室にいるからだ。

 音楽家の両親のおかげで自由に防音室がつかえる環境があるのは、恵まれていたと思う。

 だからこそ、『海底の歌姫』が生まれたと言っても過言ではない。もちろん理由はそれだけじゃないけど。

 思い出に浸ろうとしたけれど、ひぐらしの鳴き声に我に返り、跳ねるように体を起こす。

 そしてパソコンの画面で動画サイトを確認する。

 私のハンドルネームである『(うみ)』として動画をアップロードしたのは今から五分前。

 それなのに再生回数はもう千を超えている。

「平日の夜にアップロードしても、この再生回数。さすが海底の歌姫」

 私はそう呟いて笑う。

 画面の中では、ペンギンのぬいぐるみだけが映し出された動画が再生されている。

 だけど音声はちゃんと私の歌声だ。

 私のようないわゆる『歌い手』の中には、動画で顔を映したり、首から下を映したりしている子もいる。

 だけどそれは女を武器にして男性ファンを集めているだけの愚かな行為でしかない。

 私はこの歌声だけで人が集まる。

/ 27ページ

海底の歌姫

(2/27ページ)

みんなが送ったスター数

59

この作品にスターを送ろう!

明日のスターも待ってます!
(1作品につき1日1回 押せます)

新着ピックアップ

急上昇ランキング|青春